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友達、という単語……。これも知っている。
人間同士で、交流をする関係だ。仲が良い、もっと仲良くしたい、という意思表示らしい。
私は、日がな一日を過ごしている、名前のないただの精霊だ。
あの人間のように、この人間もすぐにいなくなる。精霊の気まぐれとして、私は小さく頷いた。
ひと月経ったある日、ヒスイは思い出したように私の名前を聞いてくる。
「そういえば、あのとき聞きそびれていた君の名前を教えてくれないか?」
今日も、晴れた昼下がり。私たちは、変わらずハートの葉がある大樹の下で、草原の上に座って話をしていた。
今度こそ、下手な嘘も思いつかなかった私は正直に答える。
「実は、名前がないの」
「え……? それは……思いつかなかったな。僕と同年代に見えるから……18くらいだよね? それまで、名前を使うことはなかったの?」
「……そう。名前は不要だったから」
これは、本当のことだ。個体で名前を使うのは、人間くらいだと思っている。
今では愛の精霊なんて呼ばれているけど、私に名前は必要ない。
彼の名前を知ってからは、少しは名前を呼んでもらいたいと思わなくもないけど。
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