最初に目覚めた感情は

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「どうかな……嫌だったら――」 「イヤじゃない……とても、キレイな名前。ありがとう」  私は、普段ならヒスイの言葉を聞いているだけだったのに、なぜか、否定される前に言葉を遮っていた。  その姿に、一瞬驚いたヒスイは、すぐに笑顔を向けてくる。  今の私には、表情を変えることはまだできないけど。ヒスイの色々な表情を見て、人間の感情については6割ほど理解しているつもりだ。  ヒスイは大きく息を吐いて、草の上で寝そべって空を眺めている。私は名前をつけられたことで、彼は空を眺めているはずなのに、見つめられている感覚に襲われて、思わず下を向いた。  この感情の意味は、分からない。 「はぁ……気に入ってくれて良かった。それじゃあ、これからは……マリンって呼ぶね」  1000年以上生きている、ただの精霊だった私なのに……。  今、このときがとても楽しいと感じていた。  人間で表すなら、少女が初めて見たキレイな花に心を奪われて、草原を駆け回るような。  ただ、私の隣りにある、昨日降った小さな水溜りに映る私の表情は、変わらず無表情だった。
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