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そして、今更だが、気がついたことがある。
私は精霊で、人の形を模しているだけ。つまり、人形のようなもの。
身体を触れられたことがなかったから、氷のように冷たかったらどうしようかと不安が過ぎったけれど、前を向くと青年は笑顔だった。
この笑顔は知っている。以前の私なら、向けられる表情の移り変わりさえ分からなかった、喜び。
きっと、私が買ってもらった宝石を身に着けたことを喜んでいるのだろう。
「とても、キレイだよ。……あ、変な意味はないからね?」
直ぐに訂正をする青年に、相変わらず無表情な私はどう映っているのだろうかと考えた。
店の周りは、いつの間にか先ほどよりも人で溢れている。
100年に1度しか町に降りない私は、人混みに流されそうになって、不意に手を握られた。
思ったより、しっかりとした男の手を感じる。なぜか、先ほど感じた冷たさはなかった。
「……ありがとう」
「どういたしまして。ここは、人が増えてきたから……もし、良かったら、あっちのベンチで少し話さない?」
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