~愛の祭典~

6/16
前へ
/50ページ
次へ
 青年が指さす方向に、白いベンチがみえる。  祭りだからか、誰も座っていない、少し寂しそうに映るベンチに、首を縦に振った。  人混みを抜けるまでと、握られた手に、自然と目線は向かう。それは、不思議な感覚だった。  1000年以上生きていて、100年ごとに人間の感情を知っていった。それなのに……なぜ、握られた手が気になるのか、分からない。  ベンチにたどり着いて手を離されると、その手を見つめる。  私の手には、残った温もりが感じられるような不思議な感覚だ。  今日は、男の姿をしているせいで、いつものように人間について聞けずにいる。  この感情が、なんなのか。 「ふう……年々、規模が拡大しているから、外からも人がきて賑わっているよね? 君も……町に住む僕は見覚えがないのだけど、外の人かな?」  いいところに目をつける青年に、少し考えたあと小さく頷いてみせる。  私は、近くの森に棲んでいる精霊だ。外の人間といわれたらそうである。  ――まぁ、ではないけれど。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加