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青年が指さす方向に、白いベンチがみえる。
祭りだからか、誰も座っていない、少し寂しそうに映るベンチに、首を縦に振った。
人混みを抜けるまでと、握られた手に、自然と目線は向かう。それは、不思議な感覚だった。
1000年以上生きていて、100年ごとに人間の感情を知っていった。それなのに……なぜ、握られた手が気になるのか、分からない。
ベンチにたどり着いて手を離されると、その手を見つめる。
私の手には、残った温もりが感じられるような不思議な感覚だ。
今日は、男の姿をしているせいで、いつものように人間について聞けずにいる。
この感情が、なんなのか。
「ふう……年々、規模が拡大しているから、外からも人がきて賑わっているよね? 君も……町に住む僕は見覚えがないのだけど、外の人かな?」
いいところに目をつける青年に、少し考えたあと小さく頷いてみせる。
私は、近くの森に棲んでいる精霊だ。外の人間といわれたらそうである。
――まぁ、人間ではないけれど。
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