あの子は今……。

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さらに奥へ進む。 ワクワク感を噛みしめながら進んでいると、どこかで何かが聞こえてくる。 僕は耳をすませる。 泣き声のようだ。 その声が聞こえる方へ進むと、女の子がいた。 3歳ぐらいだろうか? 一人ぼっちだった。 「パパ、ママ、どこ」 そう言いながら、女の子は泣いている。 迷子になっているようだ。 パニックになっているのが分かる。 無視したいが、そういうわけにもいかない。 僕はファンタジーから現実に戻されてしまった。 「大丈夫、あの制服を着た人に聞いてみよう」 僕は泣いている女の子にそう言って、遊園地の職員に声を掛ける。 職員は僕たちを迷子センターへ案内してくれた。 迷子センターに着くと、別の職員が女の子にジュースを差し出す。 「ありがとう」 ぐずりながらもお礼を言う女の子に、僕はホッとした。 館内アナウンスで、女の子の特調が遊園地内に流れる。 「もう大丈夫だよ」 僕は女の子に声をかける。 「うん」 女の子はそう言うが、僕の手を離そうとしない。 僕は迷子センターから離れたかった。 だけど、女の子に癒やされてる僕もいた。 なぜだろう。 とにかく癒やされた。 しばらくして、女の子の両親が迷子センターに現れた。 「どこに行ってたの」 「ごめんなさい」 泣きじゃくる女の子に、父親と母親は安堵な表情を見せる。 僕はその姿を見て、羨ましいと思った。 なぜだか分からない。 嫉妬に近い感じがした。 『ここから離れたい』 そう思ってしまった。 「それじゃよろしくお願いします」 僕はそう言って迷子センターから出ようとするが、女の子が僕の手を離そうとしない。 「もう大丈夫だよ」 そう言っても、女の子は僕の手を離そうとしなかった。 困り果てる僕に、女の子の母親が「ありがとうございます」と頭を下げる。 「いいですよ、俺何もしてないし」 「いいえ、保護してくれただけで充分です。本当にありがとうございます」 父親が続けて頭を下げる。 「すいません、引き渡し書に記入をお願いします」 迷子センターの職員が、女の子の両親に声を掛けた。 僕は女の子を見つめる。 女の子も僕を見つめていた。 「良かったね」 そう言うと、女の子から笑みがこぼれる。 それにつられて、僕も微笑んだ。 「お父さんお母さんのところへ行っといで」 「うん、ありがとう」 女の子からお礼を言われた。 僕は良いことをしたのか? 胸が温かくなった。 今度は嫉妬ではなく、切なさを感じた。 『寂しいな』 僕はそう思い、迷子センターから出ようとした。 その時「お兄ちゃん」と声がした。 振り向くと、女の子が目の前に立っている。 「どうしたの」と声を掛ける僕に、女の子の母親が「この子がこれをあげたいそうです」と言ってきた。 僕は何も言わずに女の子からそれを受け取る。 一枚の紙だった。 女の子の名前が書かれている。 「受け取ってもらえると嬉しいです。この子なりのお礼の仕方ですので」 母親からそう言われると、何も言い返すことが出来なかった。 「ありがとう」 僕はそう言って、それをポケットの中に入れた。 「私が言うのもなんですが、この子の笑顔を見た人は、なぜが幸せになっていくんです」 母親がそう言ってきた。 「ありがとうございます」 僕は母親のコメントを素直に受け止め、迷子センターを後にした。 「幸せか」 そう呟きながら、僕は遊園地内を歩く。 なぜだろう。 心奪われたはずのアトラクションが、ただの乗り物に見えて仕方なかった。 僕は女の子からもらった一枚の紙をポケットから取り出す。 アトラクションより、この一枚の紙に癒しを感じた。 「大事にしなきゃ」 僕はその紙をきれいにたたんで、財布の中に閉まった。
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