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第十一章 真実
「今弟さんが言われたことは本当ですか?」
「僕は嘘は言ってないよ」
「皆神さん!」
すると今度はその人は頷いた。
「そら見ろよ。この女はそこまで兄を夢中にさせておいて、それでいきなり姿をくらましたんだよ。それからの兄の嘆き様は本当に見ていられなかった」
「ごめんなさい」
「謝ったって済まされるもんじゃないね」
「ごめんなさい」
「うるさいよ。黙れよ!」
私はこの場にどう対応したら良いか思い悩んだ。
「それから暫くして兄は突然いなくなったんだよ」
「捜索願いは出されましたか?」
「ああ、でも行方不明なんていくらでもいるしね。それに死体のあがらない自殺もたくさんある」
「では未だに死体は見つかってないのですね」
「でも死んでる」
「何故そう言い切れるのですか?」
「兄がいなくなって少しして、税務署からお尋ねっていう封書が来たんだ。なんだろうと思って開けてしまったんだけど、そこには兄が家を買ったということが書かれてあったんだ」
「その時初めてお兄さんが家を買ったっていうことを知ったのですね」
「ああ、今住んでる家もあるし、それなのにもう一軒だなんて、しかも一戸建てだろ。この女と住むために買ったって思うのが当然だろ」
「……」
「兄はこの女に裏切られても家を買ってさ、そこでこの女との生活を夢見て、きっとこの女が戻って来ると信じてたんだろうな。それでこの女の帰りをずっと待ってたんだろうな」
彼は途中から涙声になっていた。
「なのにいつまで経ってもこの女は戻っては来ない」
「でもそれで死んだとは?」
「その後、兄から遺書が届いたんだ」
「遺書!」
「ああ、そこに死ぬって書いてあったんだよ」
「え」
「文面も本当に絶望したような内容だった。もう生きていても仕方がないとね。この女がいない人生なんてなんの意味もないからと」
「そうだったんですね」
「それがこの女、急に僕に連絡をして来たんだよ。兄はどこかって。言葉もなかった」
「……」
「しかも自分の連絡先まで教えたもんだからね。それでこうやってここに来たってわけさ」
彼は今にも切り裂いてやるという目でその人を見た。
「どうして彼の前から姿を消したのですか?」
私は脱ぎ捨てられた洋服のようになっているその人に声を掛けた。しかしその答えは到底期待出来なかった。
「今からその家に行ってみませんか?」
「家って?」
「お兄さんが建てられた家にです。ここから遠いのですか?」
「自由が丘だから近いよ」
「自由が丘ですか」
「ああ」
それから私たち四人は私の車に乗って、彼が建てたという家に行ってみることにした。
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