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第十六章 謎
「先生、どういう意味なんでしょう?」
それから私は彼の弟をあの家まで送り、それからその人をその人のマンションまで送り届けて、鈴木と事務所に向かっていた。
「あのパネルのこと?」
「はい」
「それにあの封筒のユニオンも気になるね」
「じゃああれも何か意味があるということですか?」
「うん。恐らくね」
「でもオーシャンは海が好きだったからではないですか?」
「うん」
「それからユニオンは二人が一緒になるという意味で」
「うん。あの家がその象徴だったし、後追い自殺をして一緒になるという意味もあるよね」
「はい」
私は自分が考え過ぎだろうかと思った。いま鈴木も言ったように、そう考えれば何となく辻褄があってしまうのだ。しかし、私の何かがそうではないと囁いている。それは何故だろうかと気になった。
「あの店の名前は確か……」
「Lonely boyです」
「確か二人が初めて一緒に行った場所だったね」
「はい。二人が恋人として始まった場所です」
「あそこが始まりか」
「それから次は海でした」
「うん」
「あ、あのパネルもThe Oceanで海でしたね」
「うん」
「それから海に行ってさざ波の音を聞いたり、夜空の星を眺めたり」
「彼はボディーボードをやっていたんだよね」
「はい。大会で優勝したとか」
「しかしそれを期にやめてしまったんだ」
「はい」
「確かマスターが言ってたね。彼女と出逢う前は海が好きだったと。きっとボードに夢中になっていたんだろうね」
「はい」
「最後は大会での優勝を彼女に見せて引退」
「格好いいですね」
「うん」
「Victoryの写真、見たかったです」
「あ、その写真が彼女のマンションにあったんだよね、その勝利のVサインの」
「はい」
「しかし彼は一度も彼女の部屋には行かなかった」
「そう言ってました。でも何故でしょうか」
「うん……」
「それから海では車で夜を明かしてたって言ってました」
「うん」
「ホテルとかには泊まらなかったんですよね」
「それで小鳥のさえずりで目覚めた」
「なんか素敵です」
「うん」
「early birdって声を掛けて起こしてくれたんですね」
「そうだったね」
「いいなあ」
「そうかい?」
「はい。ロマンチックです」
「小鳥の朝のさえずりは小鳥たちのキスなんだよ」
「ほんとですか?」
「そう話には聞いたんだけど、本当かどうかは」
「でもなんかそんな気がします」
「それから彼女が彼に別れを告げた」
「それから彼は弟さんに黙って家を出たんですね」
「うん。そして家を建てた」
「でも皆神さんがもう亡くなったって思って自殺をしようと」
「それがあの遺書だね」
「はい」
「それにはUnionと書かれてあった」
「それから皆神さんの病気が奇跡的に治って、そして彼を捜し出した」
「そうだね。彼が自殺をしたのを知らなかったからね」
「そして今日弟さんからあの遺書を見せられて、それでそのことを知った」
「あ」
「先生、どうしましたか?」
その時私は急に車を方向転回して彼女のマンションへと向かった。それは彼女こそ彼の後追い自殺をするのではないかと思ったからだった。
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