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第十七章 病院
その人は駆けつけた私たちの敏速な対応によって一命は取り留めた。彼女は手首を切り、そして湯船にその手をつけていた。その人は睡眠薬を飲んでいた。それは医者から処方されたものだった。
「睡眠薬を常用されていたのですか?」
それから暫くして彼女の入院先にお見舞いで来た時だった。私はもう少し彼女の心の中に立ち入ってみようと思った。
「余命を宣告されてからずっとです。死が恐ろしくてずっと眠れなかったんです」
「そうだったんですね」
「その死から解放されたあとは彼がいないことが寂しくて、それでやっぱりやめられませんでした」
「そうなんですね」
「そして彼が死んだとわかったら……」
「あなたはご両親は?」
「両親は生きていますが疎遠です。もうずっと会っていません」
「そうだったんですか」
「感謝はしていますが犠牲にはなりたくなかったんです」
「苦労されたのですね」
「高校を卒業すると東京に出て来ました」
「なるほど」
「そして彼に出逢ったんです」
「もう自殺しようなんて思わないでください」
「……」
「あなたはずっと一人だと思っているようですが、それでもあなたのことを心配している人がいるんですよ」
「え」
「私たち二人もそうです」
「あ、はい」
「ですから決して早まったことをしないでください」
「はい」
しかしその人はそう言ったものの、その言葉に力はなかった。もしかしたらまた自殺を繰り返すのではないかという不安が私を襲った。
「皆神さん、ご依頼の件ですが」
「はい」
「答えが出ました」
「ほんとですか?」
「はい」
「彼の心が見つかったんですか?」
「ええ」
「聞かせてください」
「わかりました」
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