10人が本棚に入れています
本棚に追加
第五章 レストラン
「Lonely Boy、面白い名前のレストランですね」
「はい。ここは彼女のいない人が来るお店だと彼が言ってました」
「そうなんですか」
私と皆神さん、そして助手の鈴木がそのレストランのドアを開けると、まるで西部劇にでも出て来そうなバーの雰囲気が広がっていた。
「カウンターとテーブルどちらにしますか?」
鈴木がそうその人に尋ねた。
「その時お二人は?」
私も続けてその人に聞いた。
「カウンターでした」
「ではカウンターに」
私たち三人がカウンターに座ると、さっそく若い女性の店員が注文を取りに来た。その店員は二十歳くらいの可愛らしい感じの子だった。きっと彼女を目当てにここを訪れる客もいるのだろうと思った。
「確かに男性ばかりですね」
鈴木が辺りを見回してそう言った。
「でも、かと言って嫌な雰囲気ではないですね」
「そうだね」
私もその人から彼女がいない人が来るお店ということを聞いた時にむさくるしい、何か男の汗の臭いでもしてくるような雰囲気を想像したのだが、それとは違って寧ろ明るく雰囲気の良い印象を受けたのだった。
「マスター、僕も今日でここを卒業です」
すると私たちから少し離れた場所に座っていたカップルが、恐らくここのマスターと思われる人に何やら話し掛けている声が聞こえて来た。
「すると横の人は君の彼女ってわけか」
「ええ、まあ」
「なんだよ。はっきりしろよ」
「はい。彼女です」
「おめでとう!」
マスターとその男性は、仲が良さそうに話していた。それで私はついその光景に気を取られていた。
「彼もああやってマスターに私を紹介してくれたんです」
「あなたたちも?」
「はい。あれは通過儀礼なんです。彼女が出来るとああやってここに連れて来てマスターに紹介するんです。それでもうここには来るなよってマスターに言われるんです」
「なるほど。それで彼もあなたを」
「はい。でも私たち初めて会った日に彼にここに連れて来られて、それでびっくりしました」
「そうですよね」
「でも、三人で話をしているうちに、なんか私、このまま彼の彼女になってもいいかなって思ったんです」
「会ったその日にですか?」
「はい。そういう出会いもあるんじゃないかって思ったんです」
「わかります」
私がそう返事をするとその人は満足そうに微笑んだ。
「マスターには彼のことを聞かれましたか?」
「はい」
「では、ここの調査も済んでたんですね」
私はそれならそうと言ってくれても良かったのにと思って苦笑いをした。
「でも、ここの雰囲気好きなんです。だからまた来てみたくなって」
「ロンリーボーイが来る店、それでそういう名前なんですね」
私はそう言って再び店の中を見回した。すると先ほどは気がつかなかったのだが、どの男性からも失意のようなものは感じられなかった。それで彼らはここへは嘆きに来るのではないと悟った。
最初のコメントを投稿しよう!