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第七章 ボディーボード
「私、彼と一緒にボードをしに来たことはないんです」
「そうなんですね」
「でも、一度だけ……」
「一度だけ?」
「はい。一度だけ彼がボードをしている姿を見たことがあるんです」
「それは?」
「ボードの試合でした。彼はそれに出るって言って。それで私も応援に行ったんです」
「そうだったんですね」
「私、初めて彼がボードに乗る姿を見て感動しました」
「格好良かったんですね」
鈴木がそう言った。
「はい」
「結果はどうだったんですか?」
「優勝しました」
「すごい!」
「でもそれでボードの卒業だって言って」
「ではそれを最後に?」
「はい。それで彼はボードをやめてしまったんです」
「残念ですね」
「ええ」
「でもどうしてやめてしまったのですか?」
「ボードは一人の世界だからって」
「一人の世界?」
「はい。私と一緒に出来ないからって」
「確かにボードは一人乗りですが、皆神さんは?」
「私、泳ぐのが苦手で」
「あ、そうなんですね」
「でも海は好きなんです。特に彼と見る海が」
「なるほど。それでその大会で優勝したのを最後に次はこうやって二人で海を見ていたんですね」
「はい」
「素敵ですね」
鈴木がつぶやいたのが聞こえた。
「彼がVictoryって言いながらVサインをしてる写真が私の部屋に飾ってあります」
「その写真は?」
「大会で優勝した時に撮ったものです」
「今度見せて頂けますか?」
「はい」
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