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第九章 マンション
「わかりました。でもそれは私のマンションででも宜しいでしょうか?」
「はい。お話し頂けるならどこへでも行きます」
私はそれで車を再び走らせると、その人の案内でその人のマンションへと向かった。
マンションは等々力にあった。そこまで彼女は終始無言だった。疲れもあったのかもしれないが、これからどう話をしようかと思いを巡らせていたのだと思った。
私はその人に案内されたパーキングに車を止めると、それから歩いて数分のところにその人のマンションがあった。その人は入口の管理人に声を掛け、エレベーターに乗った。
「609です」
その人はそう言ってエレベーター中の6というボタンを押した。
「ここへ彼は?」
「いいえ。来てません」
「一度もですか?」
「はい。引越しをしたので」
「彼とお付き合いがあった時の頃の住まいから?」
「はい」
私は彼を待っているのなら、何故以前の住まいを引越ししたのか少し疑問に思った。もし彼がその人に会いたくなって、その人を捜そうと思っても居場所がわからなくなってしまうだろうと思った。
「あら」
6階でエレベーターを降りると、その人がずっと先に立っている男性を見て声を出した。
「お知り合いですか?」
私がその人にそう聞いてもその人は無言だった。それで私はまさか彼が現れたのかと緊張した。するとその男性がこちらに気が付いて、こちらに向かって来た。
「おい、お前!」
ところがそれは意外な展開だった。その男性はいきなりその人につかみかかって、そしていきなり突き飛ばしたからだった。
私は事態について行けずにいたが、それでもその男性がその人に尚もつかみかかっていくことは防ぐことが出来た。
「あなたは誰なんですか?」
私はその男性を威嚇するように声を大きくした。
「お前こそ誰だ?」
しかしその男性からは答えではなく質問が返って来た。
「彼の弟さんです」
「弟さん?」
その男性は私に腕をきめられながらも尚も彼女にどなりちらしていた。
「この人殺しが!」
「人殺しって」
「この女は僕の兄を殺したんだよ!」
「ええ!」
「兄は死んだんだよ。この女に殺されたんだよ!」
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