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1.不完全なΩ
大学からの帰り道。
最寄りのバス停前の坂道を下った先に見えるのは、赤い布をかけられた小さな縁台。
その縁台を目印にしているのが小さな和菓子店、『和処なごみ』だ。
「泰斗、今日も行くだろ?」
「行きたいのはお前だろ、楓」
俺からの声かけにため息混じりで答えるのは、少し固めに見える黒髪が艶やかな友人・井筒泰斗である。
一般的にαとは運動も勉強も出来るとされている。
種としてもβやΩよりも優れているとされ、また唯一男Ωを妊娠させることが可能である。
そしてそんなαである泰斗も勉強や運動が出来た。
顔がいいこともあり当然男女共にモテるこの友人は、流石αだと感心してしまうほどαらしいαで――
“なんでわざわざ俺に付き合ってくれるんだろ”
そんな完璧αな泰斗とは違うΩとしてすら不完全な俺と、何故か対等な友人関係を築き今日も今日とて坂道を下った。
和処なごみの店内に入ると、いつもと同じ穏やかな笑顔が出迎えてくれる。
「いらっしゃい、平野くん」
「えへへ、こんにちは生垣さん」
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