0人が本棚に入れています
本棚に追加
夕方から降り続いていた大雨で白っぽい毛並みはずぶ濡れで、どれだけ違う生き物だったとしても一目でああこいつは寒くて今にも死にそうだと分かる震え方をしていた。一度は横を素通りしてみたものの、この雨で外を出歩く人間などまずいないだろうし、いたとしてもその人間が動物好きのお人よしでかつこの道を通る確率はどれくらいなのだろう、などといらぬ想像力を働かせてしまったせいで、気付けば家にあるクッションサイズのその毛玉を抱えてさらに雨脚の強くなった土砂降りの中を帰宅していた。
ひとまずバスタオルで水気をとりドライヤーで乾かしてやると白い毛並みはふわふわになった。暖房をつけ、毛布にくるんで抱っこしソファに座ってしばらくの間温めてやると、震えは止んだ。たぶん眠っているのだろう。毛玉は膝の上でおだやかに膨らみ、縮むを繰り返した。
ここにきてやっと、私の頭に当然の疑問が浮かび上がる。むしろどうして今の今までその思考に行きつかなかったのか不思議なくらいだったが、動物好きな私としてはこの毛玉を救わなければならないという使命感に意識が引っ張られ過ぎて、たぶん本来重要なその事柄を後回しにしてしまっていたのに違いない。
というわけで、今更ながらその重要な問題に頭を回そう。
こいつはいったい何の動物なのか。
現在のところまるで分からない。謎だ。
というのも丸まっているため顔、というか頭部がどこなのかも分からないし、見たところ尻尾らしきものもついていない。犬や猫ならそれっぽい耳くらいこの状態でも分かりそうなものだが、とりあえず今見える範囲でそれは確認できない。
というか、足もない。いや、そもそもこれは本当に丸まっているのだろうか。最初からこれは丸いのであって、これの直立不動の最終形態としてこの丸い形状なのではないか?
そのとき、毛玉が真ん中からぱっくりと割れた。それは時間にして数秒程度のもので、すぐまた元の丸い形に戻っていた。もっと情緒的に説明するならば、毛玉が欠伸をしたのだと思われた。
それはさながらパックマンのごとく体のほぼ半分が口という信じがたい光景だった。口の中は鮮やかな赤色で、そこには白い歯が、いや歯というより牙がずらりと並んで生えていた。
この毛玉の体温が戻るのに反して、今、私の血圧は急激に下がっていた。
何か私は、とんでもないものを膝の上に乗っけているのではないか。
私は一度大きく深呼吸し、改めてそれを見、何の動物か当てようと試みた。
ふわふわの白い毛に覆われた耳も尻尾も足もないが口はあるむしろ口だけがある生き物。
……違うな。これはもう、そういう次元の話ではないのだ。
質問を変える必要があるのだ。
これはいったい、何なのだと。
最初のコメントを投稿しよう!