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ゼアはゾフの膝に乗り、相手の首へと腕を回した。微笑むと強面の獣人は甘い眼差しをくれる。
「響をこちらに引き込んだ理由は何?」
「彼がオルタ専属班を志望していたからだ」
ゼアは笑みを深くした。
「隠し事? 俺には話せないんだ?」
「ゼア」
それは自分の名前であり、自分の名前ではない。
「あいつ、俺たちの目を見ていた」
「目を見て話せる人間なんだろう」
ゼアは思わず、笑い声を漏らしてしまう。
「はぐらかすんだ?」
ゾフはこちらの両目が細くなったのがわかったのだろう。表情を硬くした。
ゼアは達観した笑みを相手に送り付けた。
「暫く、お前の愛している人間には完全に眠ってもらう」
獣人の頬へと手を伸ばす。
「手綱を握られるのは気持ちが良いものじゃない」
ゼアは自分を見つけた生物の首に腕を回した。
「響はお前と同じ目を持っているな?」
それの心音が速くなる。
「イエス? 体は正直だ」
唇をそれの耳元へと向ける。
「お前が嘆くから僕はわざわざこの体に寄生してあげたんだ。恩を忘れたとは言わさない」
「忘れたことなどない」
「そう。その言葉、しっかり覚えておくよ」
体を起こし、距離を持つ。
「ノアに何かあったら、わかっているね?」
それは悲しそうな顔をした。本当はどんな感情なのかは不明だが、ゼアはそう思った。理由は、それがこの体(ゼアが間借りしている)の主に依存していることを知っているからだ。
僕も随分この生き物に肩入れをしている。
共感は破滅の香りがする。
お前はこうなるなよ、とゼアは胸中で呟いた。
頭にはノアの姿が浮かんでいた。
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