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ちょっとだけやってみよう
私のボケットの中には『ちょっとだけやってみよう』が入っている。
それは誰にも見えない。
私だけの秘密。
初めて気づいたのは幼稚園の頃だ。
発表会の全体練習の時、一人の子がちょっとだけはしゃいでしまった。
「ふざけないでキチンとやりなさい!」
先生は、すごく大きな声でその子を怒鳴りつけた。
皆、びっくりして固まってしまった。
わずかな静けさの後、怒鳴られた子は泣き出した。
誰も動かない。
先生は何もせず立ち尽くしている。
泣き声だけがやけに響く。
なんだかゾクゾクと寒くなってしまった私は、着ていたスモックのポケットに手を入れた。そのときだった。
『ちょっとだけやってみよう』
突然そんな気持ちになった。
ポケットに入っていたティッシュを握りしめると、私は泣いている子のところへ歩いていった。
「さなちゃん、あっちいこ?」
手を取って立ち上がらせると、私の座っていたところへ引っ張っていって一緒に座る。
ポケットティッシュを一枚引き出して渡すと、ちなちゃんは涙を拭いた。
もう寒気は感じなかった。
それがきっかけで私はちなちゃんと仲良くなった。
私の初めての友達だ。
明るくて元気いっぱいのさなちゃんといると、毎日がとても楽しくなった。
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