ちょっとだけやってみよう

1/7
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

ちょっとだけやってみよう

私のボケットの中には『ちょっとだけやってみよう』が入っている。 それは誰にも見えない。 私だけの秘密。 初めて気づいたのは幼稚園の頃だ。 発表会の全体練習の時、一人の子がちょっとだけはしゃいでしまった。 「ふざけないでキチンとやりなさい!」 先生は、すごく大きな声でその子を怒鳴りつけた。 皆、びっくりして固まってしまった。 わずかな静けさの後、怒鳴られた子は泣き出した。 誰も動かない。 先生は何もせず立ち尽くしている。 泣き声だけがやけに響く。 なんだかゾクゾクと寒くなってしまった私は、着ていたスモックのポケットに手を入れた。そのときだった。 『ちょっとだけやってみよう』 突然そんな気持ちになった。 ポケットに入っていたティッシュを握りしめると、私は泣いている子のところへ歩いていった。 「さなちゃん、あっちいこ?」 手を取って立ち上がらせると、私の座っていたところへ引っ張っていって一緒に座る。 ポケットティッシュを一枚引き出して渡すと、ちなちゃんは涙を拭いた。 もう寒気は感じなかった。 それがきっかけで私はちなちゃんと仲良くなった。 私の初めての友達だ。 明るくて元気いっぱいのさなちゃんといると、毎日がとても楽しくなった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!