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桜世学院中等部! 入試編
窓から見える景色は雪がハラリはらりと降っていた。
柊 春風は、寒い廊下で苦手な受験生が緊張した面持ちで挨拶していくのを笑顔で返していた。
(早く終わんねえか。)と心のなかでつぶやいている柊。腕の時計を見ると、9:25。あと五分でこの退屈な手伝いという名の受験生の見張りが終わる。
はあ、と思わずため息をついていると後ろから声がした。
「あ、あの!二〇七号室ってどこですか?」
振り向くと、鼻水を垂らした赤い頬の少年がジャケットを着て立っていた。
「そこの廊下を右に回ってすぐの教室だ。あと3分で始まる。」
そっけなく言うと少々怯えた顔で少年は速歩きで去っていった。少年が見えなくなってすぐに、
「これより桜世学院中学部入学試験を始めます。」
と去年の自分も聞いた、無機質な声が聞こえた。
「はあ、やっと終わった!」
ぐううと背伸びをしていると、
「おい!ハルカ!」
(めんどくさいのが来た)と思いながら振り向くと、
「お疲れ、これ差し入れ。」
ぽいっと缶コーヒーを渡された。
「理都のくせに。」
「ああ?俺様だからやってやるんだろうが!!」
「昨日松田先生から助けてやったのは誰だ?」
「・・・、さーせん。」
黒い高級スーツに三七分けの黒髪、高そうな金の腕時計、スラッとしたダンデイな男、に見えなくもないし一言で言うならインテリヤクザである。が、ヤクザではない。一般市民だ。
そんな元ヤン的な雰囲気の男を誰が由緒正しい桜世の教師だと思っただろう。
小泉理都。
33歳。現在進行系で独身。そしてきっとこれからも独身であろう男。そして柊たちの金づ・・、兄貴分である。
強めな外見に反して、意外と常識人かつ、ちょろ・・、優しい。
小泉からもらった缶コーヒーを開けながら柊は、
「もうこれで寮に戻っていいか?」
小泉の方を見ずに言う。
「ああ。これで終わりだぜ、ハルカ。」
柊はパチっときしょいウインクをかましてくる小泉を一発殴りながら誰もいない廊下を歩いていった。
「ハルカじゃない。春風だ。」
捨て台詞を吐きながら。
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