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言われて地面を見ると、魔法陣が描かれている。魔法使いなら、真っ先に下を見ていたんだろうな。かなり複雑な紋様のような物が描かれている。エデン神父がランタンを灯して見せてくれた。いや、魔法陣というよりこれは。
「ラトリーニ方程式?」
「そう。魔法陣って言ってしまえば不思議なもの、って認識だけど。本来は緻密な数学と物理学だ。ただの、理数の塊なんだよ」
完璧な計算だ。ちょっと私が読み解くのには時間がかかるくらい。相当すごい学者が構築したんだろうなとわかる。でも、一か所。
「構成式が、足りない」
「そうだよ。普段そこはあえて欠けさせている。この式がわかる者にしか使えないようにしているんだ」
やってごらん、と促された。私には解ける、と言っているんだ。難しいけど、順を追っていけばちゃんと分かる。数学は難しくなんてない、答えは一つしかないんだから。解き方は、一つじゃないけど。
エデン神父からチョークを渡され、私はゆっくり時間をかけて解いていく。そして、欠けているところに導き出した答えを書き足した。するとこれもまた無音で方程式がグルグルと生きているかのように動き始める。勝手に数式が組み替えられて、別の式へと変わっていく。さすがに何の式なのかはわからないけど。
空気が震えた気がした。ちょっと吐き気のような、微妙な胸のつまりが生まれる。そして。
瞬きをしたときには、風景が変わっていた。地下にいたのに、そこは廃墟のような場所だ。一瞬城に来てしまったのかと思ったけど、すぐに違うと分かった。
私の目の前には、巨大な建物が宙に浮いている。かなり黒焦げている建物、間違いない。私が普段見ていた、あの城。
「ここが城への入り口だ。我々だけが使う事ができる」
本当にすぐ近くに城がある。山登りができるくらいの高さだろうか?
「本来はこれくらい近いんだよ。視覚効果の調整で、はるか上空にあるように見えているだけだ」
周囲には見たことがない道具、だろうか。鏡のようなものもあるし、想像もつかないような不思議な物もある。まるでお伽噺の中に迷い込んでしまったかのような、そんな風景だ。これが視覚効果を調整する道具、ということだろうか。
「この入り口を管理しているのが我ら王族。魔法が使えない者」
ここから先の話を、私は聞いてはいけないのではないか。そんなわずかな恐怖が生まれる。
「常にコレを管理する常駐者と、有事の際に『目覚める』管理者。世界はそうやって均衡を保っている」
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