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「そうしたら、君は理解するよ。すべてを。だから、今日一日は過ごしたいように過ごしてごらん。今までの思い出を振り返ってもいいし。美味しいものが食べたいなら用意しよう」
私は何がしたいんだろうか。
振り返ると、お父さんとお母さんの笑顔。収穫の喜び、乳しぼりの楽しさ、冬の厳かな空気。そればかりだ。みんなとの思い出、あんまり興味ない。
「手紙を書きたいです、家に。しばらくここに泊るって」
「わかった、用意しよう。明日、本をある程度読み終わったらアトレーンティーズにもいかなければ」
海に沈んだと言われる幻の大陸。……隠されてるだけだったんだ。そっか。本当に大切な物は、派手に見せたりしないものね。
「シャフィはいつ帰って来るんだ!?」
シェフィの家には連日村人が押し寄せる。町に行くと言って半月が経った。いつ戻るのか聞いても両親は「娘が帰ってこようと思うまではそっとしておく」というだけで、迎えに行こうともしない。
「心配じゃないのか!」
「神父様にお任せしているから問題ない」
「おかしいだろう、半月だぞ!?」
「手紙が来ているから大丈夫よ。国の歴史を学び始めているらしいから時間がかかっているのでしょうね」
いつも笑顔を絶やさないシェフィの両親。だが、マイカにはそれがなんだか腑に落ちない。魔法陣が次々と見つかり、早くシェフィに読み解いて欲しいのに帰ってこない。
この事が他の村にバレたら先を越されてしまう、皆焦りから殺気立っている。それなのに、両親はにこにこと笑顔で対応している。その様子にさらに皆苛立っている、マイカは不安になってきた。
――いくらなんでも、変じゃない? どうしてあんなに余裕なの。
何しに行ったのかと聞いても神父に呼ばれただけだから知らないという。本当に知らないなら、他の人が言うように焦るはずだ。殺気立った村人に怯えることなく笑顔のまま。まるでお面のように。
手紙が来ているといっているが、きていただろうか? 町からの配達人がやってきた様子はない。こんな田舎に手紙が届くには数日かかるはずだ。頻繁に来るわけがない。
仕事の邪魔だ、みんなが農作業をやってくれないから仕事が溜まってるんだけど。その言葉にみんな舌打ちをして離れていった。自分達の仕事を押し付けている自覚はある。
だが、魔法が使えないものがやればいいだろうと。最近はその言葉も隠さないようになってきた。昔から感じていたことだ、シェフィ一家が村人たちから見下されていたのは。
「おばさん、本当に心配じゃないの?」
誰もいなくなったところでマイカがそう尋ねると。シェフィの母は、にっこりとわらう。
「少なくとも、貴方達に都合よく利用されるよりはいいわ」
「……」
さっさとどこかに行け。
そう、笑顔が語っている気がして気が付いたら走り出していた。
怖い、あの笑顔。あの人、あんな笑い方をしていたっけ。
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