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魔法が使えない人たちが困る。その言葉にマイカは必死に考えている。魔法使いが困るのではなくて、魔法使えない人が困る。
「魔法を使えない人がますます差別をされるから?」
「それはもうされてるじゃない」
「じゃあなに!?」
癇癪を起こしたような、悲鳴のような声だった。もう一歩後ずさる。いつでも走って逃げ出せるようにはしているみたいだけど、私の答えが気になるらしい。
今こうして会話をしていること自体が、最後の魔法陣が発動されるのを待っている時間稼ぎだと気づけないあたりはちょっと残念だ。
「この国がとても豊かなのは魔法使いがいるから。魔力を使って災害が起きないように自然を整えているから」
「そんな魔法ないよ!?」
「魔法じゃない。その整える方法は王宮の中にある。王族は、魔法と世界を調整し続けるのが仕事」
歴史を振り返ってみてもこの国は戦争の歴史はあっても災害の歴史は無い。大雨が降ったこともなければ干ばつが続いたこともない。
いつも穏やかな天気で適度に雨が降って、作物が育たないなどという事は無い。飢餓がないなど、他の国ではありえない。そのことに誰一人疑問を抱かなかった。
空に浮かぶ正体不明の城という、他に意識を向けさせる対象があったから。特大のネタがあったからだ。
平和が続くとつまらないことに集中してくだらないことに熱中する。夢を追う自分に酔いしれる。
「国を維持するにはたくさんの魔法使いが必要なの。でもさっき言った通り莫大な魔法を使うと辛いでしょう? やりたくないっていう人も出てくる。だから上空で管理することにしたの」
遠くで魔方陣が光った。最後の魔方陣がとうとう完成したんだ。
「なんの、管理」
体を既に後ろに向けようとしている。私が答えた瞬間に走り出すんだろうな。そういうのはバレないようにしなければ意味がないのに。
「魔法使いの」
マイカが大きく一歩踏み出した。
「貯蔵庫」
マイカが走り出した瞬間、彼女の真下に隠れていた本物の魔方陣が光り輝いた。さっき彼女が書き足した魔方陣は魔法使いを欺くための飾りのようなものだ。
ここにすごい魔方陣があってそれを読み解く方法がわかったと言えば、魔法使いは間違いなく、絶対に自分の手で最後の式を完成させる。自らを閉じ込める、檻の魔法を。
自分の生命力を使った檻なので絶対に出られない。出られるときは、死んだ時だ。
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