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「向こうに着いたらすぐに行動起こさないと、あっという間に拘束制御媒体に『絡めとられて』身動き取れなくなるからね。神経麻痺させる針が無数についてるから、ちょっとでも触れたら二度と動けないよ。みんなを説得するのと、みんなを見捨てるのどっちが先になるだろうね」
私はその場にしゃがんだ。私の足元に最後の転送用の計算式が書かれているから。ここを完成させれば全員一気に貯蔵庫に送ることができる。
今頃みんな光った割に何もないなと不思議に思っている頃だ。そして魔方陣から出ることができないと気づいてパニックになっている奴もいるだろう。魔法を使って怪我をされる前に送らないと。
そんな慌てた状態で今の話をしたら、こんな時に何を言っているんだと関係に完全に亀裂が入るに決まってる。マイカを含めて、所詮みんな自分のことしか考えていないのだから。
ガタガタと震えているマイカ。あまり詳しい様子を話していないのに、自分が一体どんな目にあうのか想像できてしまったみたいだ。
魔力は空気に触れた瞬間に劣化する。だから体内に蓄積している時が一番魔法の力は強いということをマイカだけは知ってる。
ほんの少しナイフで指を切って血が溢れた瞬間に使った魔法が、特大の効果があるというのを彼女は突き止めていたから。他の子達には内緒にしていたみたい。それはそうだ。自分が他人より優れたことができるのなら共有なんてしない。差をつけたいから。
体内に溜まった魔力を勝手に取り出される方法なんてまともな方法じゃないに決まってる。しかも指一本動かすことができない、一切抵抗ができないということだから。
マイカは引きつった顔で、泣きながら笑う。ピエロみたいだ。
「ねえ、私達、友達だよね? ねえ?」
涙目で、震える声で言うマイカ。私は久しぶりに、にっこり笑った。
「わざわざ確認するなら、違うんじゃない?」
「いやああ――」
声が消えた。城に転送されたからだ。
見れば焼けた跡がなくなりきれいに修復されている。よかった、魔力が最低水準を上回って修復機能が復活したらしい。
「やっぱりマイカの力はこの村で一番強かった。ありがとうマイカ」
村に戻ると、私が帰ってきたことを聞きつけた村人たちが集まっていた。みんながいないから抜け駆けしたんじゃないかって怒っている人もいる。
上に浮かぶ「貯蔵庫」を見ると。まだひび割れが修復できていない部分がある。もう少しだけ魔法使いが必要か。
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