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みんなと一緒にいたのかと興奮した様子で尋ねてくるので私はうなずいた。
「魔方陣が光ったらみんないなくなっちゃった」
「なに!? 城に行けるようになったか! 急ぐぞ!」
そう言って村人全員で魔方陣のある場所に散り散りに走っていく。一度動いたから、あとは足を踏み込むだけで転送される。
それを見送って、改めてお父さんとお母さんを振り返った。二人とも必要なものをまとめて移り住む準備はできたようだ。
「ここは放っておいても大丈夫。行こうか」
「はい」
そうか、もう私のお父さんとお母さんではなくなったか。私はそういう役割だ。
これから長い時間をかけてバランスが崩れてしまった貯蔵庫の補充をしなければいけない。そうして役割が終わったらゆっくり歳をとって生涯を閉じる。
そして必要になったら再び次の羊飼い(シェフィ)が誕生する。
そうやって、繰り返してきた。でもそろそろ貯蔵庫の存在自体を隠す必要があるかもしれない。新しいシナリオを考えないと。魔法使いがイイ感じに熱中して、疑問を抱かずに操りやすい方法。
町についた私を、エデンが迎えて。教会の地下から王宮につけば、王族が勢ぞろいしていた。
「長年の責務、ご苦労様。本当にありがとう」
心からのねぎらい。お礼って言っていて気持ちがいい。皆笑顔で目礼する。
「健やかな御目覚め、ありがたきことです」
国王が恭しく頭を下げる。王妃、息子であるヴァイス達も一礼した。
「貯蔵庫は魔法使いから見えなくする。そのかわり、百年に一度英雄を作って戦争を起こして。魔法使いが輝くように」
「拝命いたしました。百年ごとでよろしいのですね?」
「祖父母の代になれば戦いは伝えられなくなる。子、孫の世代が平和なら戦いから目を背けて道楽に走る。百年周期が丁度いいわ」
私の言葉に皆忙しそうに会議の準備を始めた。
「魔法が使えない者達。『監視者』たちに、役割の説明をして」
魔法が使えない人たちは、無自覚なのだ。でもどこかでうすうす勘づいている。知らない事こそ、自分の身を守るため必要なことだったから。
人である以上好奇心もあるしうっかりもある。最初から役割を知っていたら、どこかで魔法使いにばれてしまう可能性が高い。だから、皆何も知らずに生きている。
「教育が終わったら魔法陣へ魔法使いを誘い込むように命令を。各地からバラバラに人がいなくなれば騒ぎになる。そうだなあ。なくなってももったいなくない、貧しい村人全員を一斉に送って」
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