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「どうなんだろう。よくわからない」
「火の魔法が使えれば火おこしなんてしなくて済むし、水を操る魔法が使えれば水汲みしなくて済むものね」
「そうだね。でも、普通にやればいいだけじゃない?」
「うらやましいって思った事はないの?」
最近私がみんなの輪から外れて一人で黙々と畑作業しているのをどうやら気にしているらしい。チラリとお母さんの顔を見れば複雑そうな顔している。
「正直にいうとね」
私の言葉に、お母さんは心配そうに見つめる。
「一度もない」
「そうなの?」
これは本当に誰にも言った事がない。そう言ったところで、みんなには「無理をしている」「嘘をついてる」と思われるに決まっている。
弱い魔法しか使えない人は強い魔法が使えるようになりたいといつも願う。だから魔法が使えない人は魔法そのものが使いたいはずだ、と考える。でも、私はそういうことにまったく興味がなかった。
「あとね、みんなが行きたがってるあの城」
私とお母さんは、空を見る。
「あそこに行きたいって思った事も、ない」
「どうして? 神秘的でしょう?」
「ねえ、何で誰も……怖いって思わないの」
私はぽつりとつぶやいた。昔から不思議だった。どうしてみんなそこに「究極魔法が眠っている」「宝がある」と決めつけるのだろうか。
「普通じゃないよ、城が空にあるなんて。神や特別な人が住んでるなら行くべきじゃないし、もしかしたら」
「うん?」
「とんでもない化け物が封印されてるかもしれないじゃない。どうして、あそこには凄い物があるってみんな決めつけるの?」
これも、絶対理解されないだろうなと思って言った事はない。だって魔法使いがあの城にいくのは夢や希望をとおりこして、使命みたいになっている。
みんなも小さい時は行ってみたいなあ、だったのに。いつのころからか「絶対行く」「必ず入る方法がある」と躍起になっている。魔法使いのやるべきことはあの城に行くことだ、という雰囲気だ。
「情熱を注いでいるものを否定したら、いい気分なんてしない。だからみんなに言った事はないんだけど。私は、ほうっておけばいいのにって思う。どうでもいい」
お母さんがお茶をいれてくれた。一口飲んで、ほっと息をつく。正直に言えてちょっとすっきりした。
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