魔法使いは城へ導かれる

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「承知」  貯蔵庫の魔力が六割になれば、ひとまず入庫は止めていい。どうせいなくなった人のことなんて誰も気にしない。 「何か欲しいものは?」  私は両親を振り返る。立場は違ってしまったけど感謝している、私を立派に大切に育ててくれた。最初から私がこの役目だとわかっていたわけじゃないと思う、直感のようなものだろう。 「農作業が好きなので、今までと同じような暮らしがしたいです。できれば、自分で作業を」  農地のとりまとめ役は望んでいないという事らしい。地位や名誉に興味はない。父さんたちらしい。 「魔法が使えない者達を集めて、モデルケースの村を作ろうとしていたところです。そちらはいかがかな?」  ヴァイスがそう言うと、父さんたちは嬉しそうに是非お願いしますと言った。 「村は任せるわ」 「はい」  ヴァイスとエデンが一礼し、私は王宮の中へと入る。世界中に配置された転送装置の管理、調整はここでしかできない。  前の「私」がいなくなって、百三十年経った。あちこちほころびが出ていると思うから、直さなくては。  そうして、数日が過ぎた。貯蔵庫の修復機能により出火した場所はもちろんヒビなども完全に修復された。  今日もいい天気。いろいろな形の雲が出ていてお日様は暖かい。そしてそんな空に一つぽっかりと浮かぶ大きな城。 「おはよう、マイカ。今日もいい天気だね」  空で魔力供給に勤しんでくれている彼女に、私は独り言を漏らす。  太陽光の力であの城は安定して永久に動き続ける。魔法使いがいればほぼ完ぺきに管理できる。  ボヤが起きた部屋には、転送した魔法使いの中に意思疎通ができる者がいたみたいだ。数人で協力して魔法を暴発させたみたい。  新しい抵抗をしてくれると、二度と同じことができないように対策ができる。こういうトラブルやアクシデントはどんどん起こしてほしい。  年月が経てばたつほど、改善が繰り返されてより強固なものとなっていく。本当にありがたい。 「私ね、魔法使いを自分と同じ『人』だって認識できないの。だから嘘をつくし、てきとうに返事をするし、どうでもいいの。ほら、作物に話しかける人もいるし。犬猫にも赤ちゃん言葉使う人もいるじゃない。それと一緒」  友達だよね、と泣きながら聞いてきたマイカ。マイカの魔力は強い。とても貴重な資源だ。大事にしなければ。 「家畜に友情抱くわけないでしょ、馬鹿ね」 END
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