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朝食はパンが多い。トーストにジャム。私は牛乳だけれど、祖母はほうじ茶。
他人がいるのに祖母はパンを一枚多く焼いただけで、体裁も考えない。古めかしい皿、使い古された湯呑み。
「いただきます」
男がパンにマーマレードを塗る。まるでいつもそこにいるみたいな振る舞いだ。
「あのう、佐古田くんと言いましたっけ?」
私は聞いた。
「はい」
いい返事。
「この辺りの方ですか?」
「いいえ」
「仕事は?」
「していません」
やましくない人なんていない。善人もいるだろうが、悪意のない人はいないと思う。まして、こんなふうに人の家やら祖母の心にずかずかと入り込む人を信用できるはずない。
祖母が立ち上がってパンを追加で焼く。
「男の人だものね。食べるわよね」
「はい」
昔ながらの二枚縦に入れて、ジーっと音がして、ぽんと跳ね上がるタイプのトースターだ。キャラクターやかわいい動物の焼き色がつくわけでもない。
「たまご焼こうか?」
「おばあちゃん、甘やかしすぎ」
私は警告したつもり。それを食べたら出てゆくような他人に恩を売っても無駄だ。
「よりちゃんの旦那さんになってくれるんやろ?」
祖母のその言葉に耳を疑ったというよりも、息が止まった。
「はい。お婿さん希望です」
「婿?」
自分の声が裏返ったのがわかった。
そこでチンとパンが焼き上がる。
「うまい」
子どもみたいにかぶりつく。祖母は目玉焼きを作って、しょうゆをかけてしまった。パンにのせる様ではないのだ。
佐古田くんも文句は言わずに食す。
「よりちゃん、それでパンが終わっちゃったから買ってきて。旦那様にもパン屋さんの場所教えてあげてね」
「おばあちゃん、私この人と結婚しないから」
私は断言した。
「あら、そうなの? それよりも早くパン買いに行かないと売り切れちゃうわよ」
「はいはい」
我が家の唯一の贅沢はこの食パンだ。
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