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残念ながら、雪遊びができたのはその日一日だけだった。土曜日から日曜日までよく晴れてしまったこともあり、残っていた雪もあっという間に溶けてしまったからである。何故雪の翌日に限って、妙に暖かい日が続いたりするのやら。まったくもって謎である。
そして、月曜日。学校に行くためには、例の公園の前を通ることになる。私は通学中、ちらりと公園の方を見てため息をついたのだった。
――雪だるま、まだ残ってる……。
他の雪が溶けても、雪だるまのような大きなものはしばらく残りやすい。
あの、作者不明の雪だるまは、じっと公園の外を見つめているように見えた。おかしな話だ、目も鼻もなく、どっちを顔が向いているのかさえわからない姿であるはずなのに。
なんだか、いつも監視されているみたいで気味が悪い。けして恐ろしい姿ではないはずなのに、私はそそくさと公園の前を通り過ぎたのだった。
火曜日もそう。
水曜日もそう。
別に、動き出すとかそういうこともない。襲ってくるなんてはずもない。それなのに、雪だるまの前を通りがかるたび、まるで背中に柔らかく爪を立てられているような違和感を覚えずにはいられないのだ。
あれは一体誰が、何の為に作ったのだろう。何か目的があるのだろうか。公園の入口近く、丁度自分たちが通る場所に置かれていることを含めても。ついついそんなこととを考え始めたある日。
私達が雪遊びをした土曜日から、丁度十日過ぎた時のこと。通学班で公園の前を通りがかった時、あのさあ、とやーくんが言い出したのだ。
「なあ、言ってもいい?……なんであの雪だるま、溶けねえの?他の、俺達が作った雪だるまはみんな溶けちゃったのに」
「!!」
確かに、と。全員がその場で凍り付き、足を止めたのだった。
自分達が雪だるまを作ってから、十日。暖かい晴れの日が続いて、他の雪はみんな溶けてしまった。私達が並べた雪だるまも見る影もなくなってしまっている。それなのに、あの作者不明の雪だるまだけ、まったく溶ける様子がない。まるで、雪ではない別のものでできているかのように。
「確かめてみるか!」
「あ、ちょっと、やーくん!やめようって、気持ち悪いってば!」
私が止めるのも聞かず、やーくんは公園に入ってしまった。慌てて通学班のメンバー全員で追いかける。やーくんは恐怖より好奇心が勝ったらしかった。近くの木の棒を使って雪だるまをつんつんとつついたり、雪の表面をほじくりかえしたりし始めたのである。
そして。
「うわああああああああああ!?」
悲鳴が、上がった。なんだなんだ、と彼の手元を見た私はぎょっとすることになる。
「いやあああ!?」
雪だるまの中から、手が飛び出していたのだ。
小さな雪だるまの中におさまるとは思えない――大きな、恐らくは成人男性の手首が。
私達は全員絶叫し、その場から逃げ出したのである。あの雪だるまの中に死体が入っている、そう思ったからだ。
それで、どうなったかというと。
近くの交番のおまわりさんを連れて戻ってきたら、雪だるまは綺麗さっぱりなくなってしまっていたのである。まるで、私達に見つかったから逃げ出したかのように。
結局私たちは悪戯扱いされて、お巡りさんにこっぴどく叱られてしまった。理不尽な話だ。全員確かに見たというのに。嘘でも悪戯でもなんでもないというのに。
ただ、今でも思い出すとぞっとするやーくんの言葉がある。彼はあの雪だるまの正体を見た時、確かにこう言っていたのだ。
「あの雪だるま、生きてたと思う。……雪なのに、みょうにあったかかったから」
私にとって、トラウマでしかない雪の思い出。
結局あの雪だるまの正体は、何だったのだろうか。答えは未だに不明のままだ。
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