不平を聞くマシーン

1/1
前へ
/42ページ
次へ

不平を聞くマシーン

 あー。参ったよ本当に。気軽に言いながら、この男、恐ろしい反応速度と精密性で、前を横切る的を全て撃ち抜いていた。  俺は、こうしていつものように、魔王と作った自主練広場と呼ぶ射撃場で、こうして射撃訓練をしていた。  日常的にしてないと、すぐカンが鈍るからな。  こいつはそう言うが、そんなレベルなのか?伝説の魔王は、こいつに銃をくれてやったことを後悔していた。 さっきまでは、時速50キロくらいで横切るループ硬貨を抜いていたのだが、今ではそれでは飽き足らず、1/2ループ銅貨を飛ばしていた。  馬鹿を迎撃するホイットマンアップル(果糖液を狙撃するリンゴ)を50本追加にして。  アップル投入して、撃ち抜かれるまで5秒から8秒って、英雄の条件に出てた、トミー・リージョーンズのベトナム戦争における兵の生存期間が16分という、ハードなセリフを思い起こさせた。  どうしてくれよう。この化け物勇者は。  もはや異次元レベルだ。この射撃マシーンは。  2丁拳銃持って、ハンバーガーヒルで無双する蛮人めいている。 「知ったことか。私は、貴様の不平を聞くマシーンではないのだぞ」 普通のループ硬貨を500円に仮定した時、1/2ループは1円玉くらいの直径しかないのだが。  それを、今は時速90から100キロ程度の速度で横切らせているのだが、こいつは、軽口を利きながら、全部撃ち抜いて平然としていた。 「マシーンて、何だ?」  今、試しに射出速度を200キロにしてみたのだが。  駄目だ。反応速度が違いすぎる。もはやニュータイプだぞ貴様は。 「電子制御された、金属部品の集合体だ」  ああ!解った!時速200キロの銅貨を、一瞬で左腕だけで撃ち抜いた馬鹿は言った。 「ユノがぶっ壊したオートマータ的なあれだろ?宵待月(よいまちづき)だっけ?」 「破壊された部品を集めてみたのだが、あれはマシーンやロボットというより、むしろアンドロイドに近い。というより、私だって作ってみたかったのだ。あれほど繊細で、電子制御を高度にフィードバックされた人形など。もし作るなら、スーパーコンピューターレベルの電子制御とリンクしたシステム構築と、広大なラボ。そして、長い時間が必要だ。むしろ、魔力制御された人形の方が遥かに容易で早い。それなら多分、1週間もあれば作れる」 「ていうか、後半何のこっちゃだお前は」  まあな。こっちの世界に、電子制御されたアイテムを伝えてないしな俺は。携帯作ったが、魔力制御だったし。  伝説の魔王。本名新井田一魔(あらいだかずま)は呟いた。  ところで、目隠しをしたまま、まだ勇者は残心を続けていた。  終了時に鐘が鳴るという約束で。  終わったと見せかけて、5分後に銅貨をコッソリ飛ばす?ヤーイ失敗したな?とかって俺は異母兄(にい)ちゃんじゃないし。  そういうことする奴だったよな。異母兄(にい)ちゃん、勘解由小路降魔(かでのこうじごうま)は。  変に素直に、魔王は鐘を鳴らし、勇者は目隠しを取った。 「伝えてないって、あれか?ニホンの情報か?」  うるさい。魔王はそう言った。 「それよりも、新しく開発した銃だ。貴様にくれてやる」  投げ寄こした銃を、勇者は握った。 「あん?何これ?バレル長いけど、ストックがなくて、ガングリップが付いてる。何だ?これ?」  勇者の感想はその程度だったが、ハードターゲットやハードボイルド見て育った日本のオタクは、飛び上がるレベルの銃だぞこれは。 「それは、私が改良した銃器。要するにトンプソンのコンテンダーモドキだ。通常は45/70ガヴァメントを使用するが、これは50/75に拡張してある。」 「ああ。ウィンチェスターみたいな奴か。44/40だったな。薬莢の長さは約倍って、それをこの銃で撃てって?」  瞬間、魔王が創造した石造の、頭部が粉砕された。 「一発装填だが、まあエイミングはし易い。ただ、やっぱり趣味銃だな」 「貴様なら使いこなせよう。アモは無煙火薬だし、予備もベルト含めて下賜してやる」  ん?何かが引っかかった。 「どうした魔王。俺に何で彼女出来ないの?って?大丈夫だお前なら。多分きっとモテるぞ?」 「違うわ貴様はあああああああああ!この魔王が!今更彼女いないことを気にするとでも?!」 「じゃあ何だ?何か心配ごとでもあるのか?」  俺に言われて、魔王はううむと唸った。  普段、こいつはほぼ完ぺきな奴だったし。何を思い煩ってるんだ? 「先日、例のゼニスバークを襲撃したのは覚えておろう?その隙に、私は奴の兵装を粗方接収した。銃器などは、私の方がよほど詳しかった。所詮は戦前で凝り固まった老害だ。ただ、変に現代的な人物の影も観測したようだが、それとて、私と同じように、異世界からの漂流者は他にもいたらしいことは解った。江戸期の坊主と戦前生まれの老人、そして私。時系列のバラツキももう少し広いと思ったのだ。現に、奴が開発したのはMP5とカラシニコフ、精々が樹脂ストックのM16止まりだった。私レベルで、オリジナリティー溢れる自作の銃を開発する頭もない連中しかいないようだった」  結局自慢話かよ。まあ、俺だって殆ど解らなかった。 「現代の銃では、アモは無煙火薬しかない。代替品はないとすらいえる。私の魔法は物質変換が主だ。故に、材料さえあれば、幾らでも量産が可能だ。だが、この世界には、無煙火薬の材料となる物質は、存在しなかった。奴の本社を調べたが、あったのは銃弾までだった。貴様の9ミリとて、無煙化薬がなければ撃てん。夏休みを利用して、奴等の火薬庫を探したのだがな。まだいい報はない」  うん。まあ解った。 「銃弾の、雷管(プライマリー)薬莢(ケース)もあるが、ガンパウダーだけは、なかったんだな?」  まあそうだ。魔王は少し、悔しそうに言った。 「中央大陸をざっと俯瞰して解った。中央大陸では、火薬は作れん。無煙火薬など高望みはせん。黒色火薬でよいのだ。硝石を持ってこい。黒色火薬なら、幾らでも精製して見せよう」 「あー。まあ、探してきてやるよ。お前がお願いするならさ」  魔王は、少し顔を引きつらせていた。  あー。火薬かあ。俺は、家に帰る前に少し考えていた。  まあ、俺だって、一応ガンスリンガーだもんなあ。  ガンスリンガーって、エビルの本にあった表現ね?  今までを考えれば、銃って既にチート級だったんだが。まあいいかあ。  そこで、俺は、魔王とニホンについて考えた。    どこにあるのかも知らない世界、ニホン。  勿論、行ったことなんかないんだが、そうだよ。もう1人、ニホンにいたっぽいババアが。  俺は、ダッシュで校長室を目指し、扉を開け放った。  そこで、ババアはこっちに尻を見せ、パンツを脱いでいたのを目撃した。 「どうもすいません!」  即閉めたのだが、ババアの尻を、思いっきり見てしまっていた。  ニャン毛、キチンと手入れしてたって、おい!  何やってんだババアああああああああああああ!  いつもは見せに来ていたが、  完全無防備だった。ババアのニャンニャンちゃん。  ビクッてなってたもんな。尻見られて。  知るかああああああああああああああああああああ!変態ババアああああああああああああああ!おらああああああああああああああああああ!!  再度扉を蹴破ると、 「はい♡猫ちゃん要る♡?」  要らねえよババア。普通に服着たババアが現れて言った。 「あのー、バ――校長に聞きたいことがあって」 「なあに?覗き屋さん?」  このババア。しばらく言われそうだ。  とりあえず、俺はざっと説明した。 「ふーん。そう。ないのね?グアノは」  キセルをプカアってやって、校長は言った。  グアノ?って、何? 「でも、今後のことを考えると、火薬はあった方がいいのね?」  ええまあそうですが。 「火薬だったら、多分だけど、西の大陸にあるわよ?昔見たんだもの。グアノを」  だから、グアノって? 「まあ、私に兵馬の知識はないけど、貴方が求めるなら、出張してきなさいな。南国で、私を美味しくいただいてもいいのよ?私を、リゾラバママにしちゃいなさいな。裸でドロドロに絡み合いたいわね♡」  馬鹿言ってんじゃねえよババア。  幾らピチピチでおっぱいデカくても、400歳のババアだしこいつ。  あー。そういえば、南の大陸出身の生徒が、1人いたよな?エメルダ・パストーリが。  夏休みは会えなかったんだが、何か、オババとか温泉がどうとか。 「エメルダ・パストーリを、連れてっても?」  ついでに家庭訪問でもしようか。俺は考えていた。 「まあ、いいわよ?道先案内人がいた方がいいでしょ?ああそれから、私を呼びたかったら――合言葉はオミナエシよ?」  知らねえよババア。  極めて雑に、出張が決まっていた。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加