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不平を聞くマシーン
あー。参ったよ本当に。気軽に言いながら、この男、恐ろしい反応速度と精密性で、前を横切る的を全て撃ち抜いていた。
俺は、こうしていつものように、魔王と作った自主練広場と呼ぶ射撃場で、こうして射撃訓練をしていた。
日常的にしてないと、すぐカンが鈍るからな。
こいつはそう言うが、そんなレベルなのか?伝説の魔王は、こいつに銃をくれてやったことを後悔していた。
さっきまでは、時速50キロくらいで横切るループ硬貨を抜いていたのだが、今ではそれでは飽き足らず、1/2ループ銅貨を飛ばしていた。
馬鹿を迎撃するホイットマンアップルを50本追加にして。
アップル投入して、撃ち抜かれるまで5秒から8秒って、英雄の条件に出てた、トミー・リージョーンズのベトナム戦争における兵の生存期間が16分という、ハードなセリフを思い起こさせた。
どうしてくれよう。この化け物勇者は。
もはや異次元レベルだ。この射撃マシーンは。
2丁拳銃持って、ハンバーガーヒルで無双する蛮人めいている。
「知ったことか。私は、貴様の不平を聞くマシーンではないのだぞ」
普通のループ硬貨を500円に仮定した時、1/2ループは1円玉くらいの直径しかないのだが。
それを、今は時速90から100キロ程度の速度で横切らせているのだが、こいつは、軽口を利きながら、全部撃ち抜いて平然としていた。
「マシーンて、何だ?」
今、試しに射出速度を200キロにしてみたのだが。
駄目だ。反応速度が違いすぎる。もはやニュータイプだぞ貴様は。
「電子制御された、金属部品の集合体だ」
ああ!解った!時速200キロの銅貨を、一瞬で左腕だけで撃ち抜いた馬鹿は言った。
「ユノがぶっ壊したオートマータ的なあれだろ?宵待月だっけ?」
「破壊された部品を集めてみたのだが、あれはマシーンやロボットというより、むしろアンドロイドに近い。というより、私だって作ってみたかったのだ。あれほど繊細で、電子制御を高度にフィードバックされた人形など。もし作るなら、スーパーコンピューターレベルの電子制御とリンクしたシステム構築と、広大なラボ。そして、長い時間が必要だ。むしろ、魔力制御された人形の方が遥かに容易で早い。それなら多分、1週間もあれば作れる」
「ていうか、後半何のこっちゃだお前は」
まあな。こっちの世界に、電子制御されたアイテムを伝えてないしな俺は。携帯作ったが、魔力制御だったし。
伝説の魔王。本名新井田一魔は呟いた。
ところで、目隠しをしたまま、まだ勇者は残心を続けていた。
終了時に鐘が鳴るという約束で。
終わったと見せかけて、5分後に銅貨をコッソリ飛ばす?ヤーイ失敗したな?とかって俺は異母兄ちゃんじゃないし。
そういうことする奴だったよな。異母兄ちゃん、勘解由小路降魔は。
変に素直に、魔王は鐘を鳴らし、勇者は目隠しを取った。
「伝えてないって、あれか?ニホンの情報か?」
うるさい。魔王はそう言った。
「それよりも、新しく開発した銃だ。貴様にくれてやる」
投げ寄こした銃を、勇者は握った。
「あん?何これ?バレル長いけど、ストックがなくて、ガングリップが付いてる。何だ?これ?」
勇者の感想はその程度だったが、ハードターゲットやハードボイルド見て育った日本のオタクは、飛び上がるレベルの銃だぞこれは。
「それは、私が改良した銃器。要するにトンプソンのコンテンダーモドキだ。通常は45/70ガヴァメントを使用するが、これは50/75に拡張してある。」
「ああ。ウィンチェスターみたいな奴か。44/40だったな。薬莢の長さは約倍って、それをこの銃で撃てって?」
瞬間、魔王が創造した石造の、頭部が粉砕された。
「一発装填だが、まあエイミングはし易い。ただ、やっぱり趣味銃だな」
「貴様なら使いこなせよう。アモは無煙火薬だし、予備もベルト含めて下賜してやる」
ん?何かが引っかかった。
「どうした魔王。俺に何で彼女出来ないの?って?大丈夫だお前なら。多分きっとモテるぞ?」
「違うわ貴様はあああああああああ!この魔王が!今更彼女いないことを気にするとでも?!」
「じゃあ何だ?何か心配ごとでもあるのか?」
俺に言われて、魔王はううむと唸った。
普段、こいつはほぼ完ぺきな奴だったし。何を思い煩ってるんだ?
「先日、例のゼニスバークを襲撃したのは覚えておろう?その隙に、私は奴の兵装を粗方接収した。銃器などは、私の方がよほど詳しかった。所詮は戦前で凝り固まった老害だ。ただ、変に現代的な人物の影も観測したようだが、それとて、私と同じように、異世界からの漂流者は他にもいたらしいことは解った。江戸期の坊主と戦前生まれの老人、そして私。時系列のバラツキももう少し広いと思ったのだ。現に、奴が開発したのはMP5とカラシニコフ、精々が樹脂ストックのM16止まりだった。私レベルで、オリジナリティー溢れる自作の銃を開発する頭もない連中しかいないようだった」
結局自慢話かよ。まあ、俺だって殆ど解らなかった。
「現代の銃では、アモは無煙火薬しかない。代替品はないとすらいえる。私の魔法は物質変換が主だ。故に、材料さえあれば、幾らでも量産が可能だ。だが、この世界には、無煙火薬の材料となる物質は、存在しなかった。奴の本社を調べたが、あったのは銃弾までだった。貴様の9ミリとて、無煙化薬がなければ撃てん。夏休みを利用して、奴等の火薬庫を探したのだがな。まだいい報はない」
うん。まあ解った。
「銃弾の、雷管も薬莢もあるが、ガンパウダーだけは、なかったんだな?」
まあそうだ。魔王は少し、悔しそうに言った。
「中央大陸をざっと俯瞰して解った。中央大陸では、火薬は作れん。無煙火薬など高望みはせん。黒色火薬でよいのだ。硝石を持ってこい。黒色火薬なら、幾らでも精製して見せよう」
「あー。まあ、探してきてやるよ。お前がお願いするならさ」
魔王は、少し顔を引きつらせていた。
あー。火薬かあ。俺は、家に帰る前に少し考えていた。
まあ、俺だって、一応ガンスリンガーだもんなあ。
ガンスリンガーって、エビルの本にあった表現ね?
今までを考えれば、銃って既にチート級だったんだが。まあいいかあ。
そこで、俺は、魔王とニホンについて考えた。
どこにあるのかも知らない世界、ニホン。
勿論、行ったことなんかないんだが、そうだよ。もう1人、ニホンにいたっぽいババアが。
俺は、ダッシュで校長室を目指し、扉を開け放った。
そこで、ババアはこっちに尻を見せ、パンツを脱いでいたのを目撃した。
「どうもすいません!」
即閉めたのだが、ババアの尻を、思いっきり見てしまっていた。
ニャン毛、キチンと手入れしてたって、おい!
何やってんだババアああああああああああああ!
いつもは見せに来ていたが、
完全無防備だった。ババアのニャンニャンちゃん。
ビクッてなってたもんな。尻見られて。
知るかああああああああああああああああああああ!変態ババアああああああああああああああ!おらああああああああああああああああああ!!
再度扉を蹴破ると、
「はい♡猫ちゃん要る♡?」
要らねえよババア。普通に服着たババアが現れて言った。
「あのー、バ――校長に聞きたいことがあって」
「なあに?覗き屋さん?」
このババア。しばらく言われそうだ。
とりあえず、俺はざっと説明した。
「ふーん。そう。ないのね?グアノは」
キセルをプカアってやって、校長は言った。
グアノ?って、何?
「でも、今後のことを考えると、火薬はあった方がいいのね?」
ええまあそうですが。
「火薬だったら、多分だけど、西の大陸にあるわよ?昔見たんだもの。グアノを」
だから、グアノって?
「まあ、私に兵馬の知識はないけど、貴方が求めるなら、出張してきなさいな。南国で、私を美味しくいただいてもいいのよ?私を、リゾラバママにしちゃいなさいな。裸でドロドロに絡み合いたいわね♡」
馬鹿言ってんじゃねえよババア。
幾らピチピチでおっぱいデカくても、400歳のババアだしこいつ。
あー。そういえば、南の大陸出身の生徒が、1人いたよな?エメルダ・パストーリが。
夏休みは会えなかったんだが、何か、オババとか温泉がどうとか。
「エメルダ・パストーリを、連れてっても?」
ついでに家庭訪問でもしようか。俺は考えていた。
「まあ、いいわよ?道先案内人がいた方がいいでしょ?ああそれから、私を呼びたかったら――合言葉はオミナエシよ?」
知らねえよババア。
極めて雑に、出張が決まっていた。
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