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「どうやら、またしてもジュピタープロにやられたようだ」
苦々しい表情でそう言うと、城嶋晁生は盛大な溜息を吐いて、ソファーへ忌々し気に腰を下ろした。
そんな城嶋を見やりながら、秘書の加納も眉を寄せて声を荒げる。
「クソッ! 八割方ウチの園村で決まっていたのに……あの社長、これで何度目ですか!?」
「……競合する度に、こっちの仕事を丸ごと攫って行くのは毎度だな。まったく、数えるのもバカバカしくなる」
「せっかく、園村がアイドルを卒業してからの、初主演になる筈だったのに――」
悔しそうな様子の秘書に、城嶋は再び溜息をつきながら「とにかく、別の仕事を探すしかないな。ブッキングで断っていた方面に急いで繋いでくれ」と指示を出す。
携帯電話片手に席を外す秘書の背中を見遣りながら、城嶋は三度目の溜息をついた。
(……あいつが裏でどんな手を使っているのか、僕は誰よりも分かっているが)
だが、今の自分には、もう同じ真似は出来ないのも分かっている城嶋だ。
しかし、今回の仕事は城嶋エンタープライズとして社運を賭けていただけに、どうにかして一矢報いたいと思う。
「そういえば……ジュピタープロダクションは音楽業界への再進出に舵を切ったんだったな。今からでは新規参入と変わらん茨の道だろうに、何故その道を選んだ?」
頭の切れる御堂聖が、経営の困難な道をわざわざ選択するとはおかしな話だ。
つまり、それだけの理由があるという事だ。
「冷酷非情のくせに、時折考えられない行動をする男だ。そんな時は、大抵、ご執心の畠山ユウが関わっている場合だと僕は見ているが」
普段は同業他社として聖と接触しているが、個人的にも、聖とはそれなりに付き合いのある身だ。
畠山ユウが、御堂聖の最大のウィークポイントだろうと城嶋は見抜いていた。
「――さぁて、そうと決まれば少しは意趣返しをさせてもらうかな」
城嶋はそう呟くと、俳優のような端麗な顔へ意地悪そうな笑みを浮かべた。
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