オクビョウモノ

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　とにかく、芸能界は入れ替わりが激しい。

　駆け出しのアイドルや俳優が、少しばかり売れた事に油断して気を抜こうものなら、あっという間にそのポジションを奪われて世間から忘れ去られてしまう。
『芸能界』という、一見して華やかな世界は常に弱肉強食の競争環境にあり、過酷だ。

　だが、中にはそういった事から一線を画す本物のスターがいる。

　デビュー時にダブルミリオンを達成し、それからは不本意ながら十年以上も低迷期に入ってしまったが、この度、再び不死鳥のように復活した畠山ユウこそ本物のスターと言っていいだろう。

　一年前、ユウは歌謡祭を故意にドタキャンしたことで、目も当てられない程炎上した。
　世間のあまりの風当たりの強さに、さすがにもう庇いきれないと判断したジュピタープロダクションも苦渋の決断を下し、ユウとの契約を解除してしまった。
　普通は、事務所からも見放された歌手など、芸能界からそのまま消えていくのがお約束だ。
　しかし、そこからが奇跡の始まりだった。

　ユウは、自分の新曲をネットで無料配信したのだ。

　そうしてSNSにアップされたユウの歌声は、それまで『畠山ユウ』という歌手を知らない世代までをも虜にし、完全に魅了した。
　セイレーンボイスと讃えられた美声は衰えること無く、より一層輝きを増しており、昔ユウのファンだった者は一瞬にして引き戻された。

　ユウの、引力のある歌声に老若男女問わず誰も彼をも心奪われ、一気に『畠山ユウ』はトップ・スターへと返り咲いたのであった。

　　　◇

「これでやっと、誰も文句は言わんだろう」

　ジュピタープロダクションの社長であり、畠山ユウの実父である御堂(みどう)聖(ひじり)はそう言うと、満足したように微笑みを浮かべた。