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その対面に座るユウは、少し居心地が悪そうに身じろぐ。
この社長室で、契約解除を言い渡されてから一年が経った。
ジュピタープロダクションとは、そこで一度縁が途切れた訳だが。
だが、それから今までの間、この社長は自費を投入して何かと援助を施し、甲斐甲斐しくユウの芸能活動のバックアップに動いていた。
御堂聖本人は、ユウに気付かれぬよう密かに行動しているつもりだったようだが、ユウにはバレバレだった。
正直言って、社長のフォローは嬉しい事ではあるが、そんなに自分は危うく頼りないように見えるのかと、情けない気分にもなっているユウだ。
今日、本社に呼び出されたことを機会に、改めて社長の厚遇に釘を刺そうと思っていたのだが。
「……社長の、申し出は有難いんですが」
「社長だなんて、そんな他人行儀な名前で呼ぶな。二人きりの時は――」
「それじゃあ、聖さん」
ユウは御堂の名を呼ぶと、嘆息して口を開いた。
「オレは、ジュピタープロダクションの顔に泥を塗ってクビになったワケですから、それをたったの一年でチャラにするなんて道理が通らないでしょう?」
「そんな事はない。今の畠山ユウのSNS発信のブレイクを鑑みれば、もう、どの役員たちも文句を言うものなど一人もいないさ」
実は、競争の激しい音楽業界にジュピタープロダクションが復帰すること自体に反対する株主もいるのだが、聖はその事実を億尾にも出さずに笑みを深くする。
「もちろん、他の事務所も既にオファーしているだろうが、オレはそのどれよりも好条件を提示するつもりだ。だから、ジュピタープロダクションと再契約してくれ」
「それ、本当に聖さん以外の役員も賛成しているんですか?」
「当たり前だ」
聖はそう言うと、ニコニコと笑いながら契約に関する書類をテーブルへ並べた。
「プロモートやマネージメントを始め、その他一切の交渉等も、すべて専門のスタッフを揃えてジュピタープロダクションが責任もって運営する。取り分は8:2で良い。もちろん、8はお前の方だ」
それは、とんでもない破格の条件だ。
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