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次の葵が担当する学科教習は先行学科で、落ち着かない思いで準備を進めた。
先行学科は入校後、一番最初に受ける教習だ。
つまり、阿部マコトも受ける。
恐らく葵の担当する教室に阿部マコトが来るだろう。
葵はそう予想していた。
学科はVIPも一般教習生も一緒に受ける。
予鈴が鳴り、教室へ入る。
やはり教室内はざわついていた。
教室に入り、すぐに阿部マコトの姿を捉えた。
一番後ろの一番端の席にマコトは座っていた。
その周りには人がおらず、少し離れたところにどの教習生も着席していた。
スターオーラが凄過ぎた。
葵は鼓動がまた速くなり、緊張しながら教卓へ進む。
教卓に提出された原簿をまとめ、教習中の注意事項を簡単に説明した。
すると、突然マコトが立ち上がった。
その行動にどの教習生も視線が行く。
葵も説明していた言葉が止まりそうになった。
えっ…?
何するの…?
マコトは後ろの席から移動し、一番前の席に座った。
そして頬杖を付いて葵の顔をジッと見ながら説明を聞いていた。
葵の体が一気にカァッと熱くなる。
明らかにマコトは葵に関心を持っている。
心臓がバクバクしながら説明を終え、葵は原簿を置きに一度隣の学科準備室に入った。
原簿を確認していき、マコトの原簿を見つけた。
遠藤真言…
阿部マコトの本名…、真言君と名前の漢字が同じだ…
でも、やっぱり苗字は違う…
えっ…?誕生日が4月24日…
真言君と全く一緒だっ…
27歳…
歳も真言君と同じ…
葵と離れ離れになった男の子は一学年上で、背が低く、ぽっちゃりしていた。
しかし、とにかくピアノが上手かった。
前髪を掻き上げる癖があり、葵のファーストキスの相手でもあった。
その当時、葵と男の子は両想いだった。
しかし、男の子は卒業目前に母親とアメリカへ渡ってしまった。
『アメリカから帰って来たら必ず葵を迎えに来るよ。そして俺が大人になったら、葵を嫁に貰ってやる。だから、それまでちゃんと待っててよ』
男の子は葵にそう言って約束のキスをした。
しかし、その直後に葵の家は火災で全焼し、アメリカの住所を書いたメモも、葵が両親に買ってもらった大切なピアノも全て燃えて無くなってしまった。
もし…阿部マコトが…真言君だったら…
そんな可能性を考えながら葵はまた教室へ入って行った。
学科教習中、マコトはずっと葵を見続けていた。
とにかくやりづらい。
芸能人で無くとも、教習中ジッと見つめられ続けたら集中出来ない。
それが芸能人で、しかも葵が想いを寄せていた男の子かもしれない。
葵はきちんと教習出来たか不安なまま、その時間を終えた。
その日はそれ以上のマコトとの接点は無かった。
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