14年前の約束

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事故から4ヶ月が経った。 2月上旬。 葵は一週間後に退院する事が決まった。 マコトのライブの為に、年明けから一ヶ月かけてリハビリも懸命に行い、左足の痺れは残ったままで少し足を引きずるが、補助具無しで歩行が出来るようになった。 左腕は、肩から上腕のほんの一部がある程度動くようになり、軽い物なら脇に物を挟む事も出来る。 しかし、やはり肘から下は完全に麻痺していて全く動かす事が出来なかった。 「これなら歩いてドームの中も移動出来そうだね」 「そうだなぁ…。でも、無理して動けなくなるといけないから、山岸に車椅子を押させるよ」 その日の午後、葵はマコトと病院のレストランでケーキを食べていた。 周りの客や患者たちが嬉しそうにマコトをチラチラと見ていた。 しかしマコトは全く気にする事無く葵とケーキを食べ、コーヒーを飲んだ。 「山岸さんに何でもやらせ過ぎじゃない?私は杏奈がいてくれるし。山岸さんも忙しいでしょ?」 「良いんだよ。それが山岸の仕事なんだから。山岸から仕事取ったら可哀想だろ〜?」 マコトが前髪を掻き上げ困り顔をした。 「なんか…申し訳無くて…」 「それよりも、退院してからの予定をしっかり立てておかないと。本当に仕事、復帰するの?」 「うん。この前、校長と話をして決めたんだから、大丈夫だよ。指導員は…無理だけど、フロント業務や配車なら出来るし、校長も戻って来て欲しいって言ってくれてるんだもん。社長もそう言ってるって」 「まぁ…、あの事故は教習所の責任もあったからな…」 葵は社長と校長の意向により、3月から教習所に復帰する事を決めた。 左腕の麻痺と記憶障害があるので、フルタイムでは無いが、事務仕事を受け持つ事で話が進んでいる。 「なるべく迷惑にならないように頑張らなくちゃっ」 葵はモンブランを頬張った。 そして一週間後。 葵の退院する日がやって来た。 午後、叔父と叔母とマコトが葵を迎えに来た。 叔母は退院の手続きや精算をする。 マコトはライブ前で忙しいにも関わらず、わざわざ午後から休みを取ってくれた。 「退院は嬉しいけど、これだけ長く入院してたから、少し淋しい気もするなぁ」 久しぶりに自分の服を着た葵が病室を見渡した。 「そうだね。でも、僕も麻里も、葵が退院出来る日を待ち望んでいたんだよ。もちろん真言君もね」 叔父がマコトの肩に手を乗せた。 「はい。叔父さん、今日は俺に葵を任せてくれてありがとうございます。きちんと葵のフォローをしますので、心配しないで下さい」 「真言君の事は信じているから大丈夫だよ。ただ、こんなに忙しい時に、葵の為に時間を割いて本当に仕事に支障は無いのかい?」 「問題ありません。これから先も、いつでも葵の事を支えていきますので」 「そうかい。葵がこれからも世話になるが、よろしく頼むね」 叔父はマコトに微笑みながら伝えた。 「はいっ」 マコトも微笑んで叔父に頷いた。 叔母が戻り、いよいよ病室を出て行く時間になった。 ナースステーションに寄って医師と看護師に挨拶をする。 医師と看護師たちは最後までマコトをお兄さんと呼んでくれた。 病院を出るまでにも、何人かの患者やその家族たちにマコトは声を掛けられた。 その中に、以前葵の病室に来た女性患者がいた。 マコトはその女性からその時の話を聞いた。 「あなたがそうだったんだね。彼女から話は聞いてるよ。俺たちの事、応援してくれてありがとね。あなたが早く快復する事を願ってるよ」 そう言ってマコトは女性と握手した。 女性はあまりにも嬉しくて泣いてしまった。 マコトの存在で頑張れる人がいる。 葵はそれを目の当たりにした。 葵だけでなく叔父と叔母もそうだった。 駐車場までゆっくり歩き、そこで叔父と叔母と別れ、葵はマコトの運転する車でマンションへ向かった。 一時間ほどのドライブになり、葵はマコトとたくさん話をし、久しぶりの街並を車窓から楽しんだ。 マコトのマンションにあっという間に着いてしまった様な気がした。 二人は地下駐車場からエレベーターに乗り、7階へ行く。 葵はマコトとしっかり手を繋ぎ、ゆっくりと廊下を歩いて行く。 「いきなり歩き過ぎじゃね?」 「リハビリの時より全然少ないよっ」 「今夜もあるんだよ?」 マコトがわざと耳元で囁いた。 「……分かってるよ…。楽しみにしてるんだもん。大丈夫だよっ…」 葵が顔を赤くして俯いた。 「ははっ…。カワイイねぇ」 葵もマコトも嬉しくて仕方がなかった。 玄関に着き、マコトが鍵を解錠し、ドアを開けた。 「ただいまぁっ!う〜んっ…。久しぶりぃ〜っ…」 葵がゆっくりと玄関に足を踏み入れた。 「靴、脱げる?」 「うん。揃えるのも出来るから大丈夫だよ」 マコトもどこまで葵の補助をすれば良いのか手探り状態だ。 病院と家では勝手が違う所が多い。 二人で脱いだ靴を揃え、手洗いうがいをする。 葵は洗面台に左肘を置き、動かない手を右手で不器用に洗う。 「病院で練習してても、まだまだぎこちないなぁ…」 「ゆっくり出来るようにしていけば良いんだよ。歩ける様になっただけでもすげぇ事なんだよ?」 「うん…」 「上出来〜っ。俺、何も手伝ってないよ?」 「うふふ…。そうだね。私、頑張れそうっ」 葵は微笑んでコップに水を入れ、うがいをした。 手洗いうがいを済ませてマコトが葵を連れてリビングへ行く。 「真言君。手洗いうがいしないの?」 「………」 葵の記憶障害の症状だ。 最近調子が良い日が続いていたので油断していた。 恐らくマコトがいない時間に多少なりとも症状が現れていたのだろう。 「真言君、聞いてる?」 「ごめんっ。焦り過ぎて忘れてたわっ」 マコトはまた洗面所へ葵を連れて戻った。 二回目の手洗いうがいを済ませてリビングに入る。 葵はそのままグランドピアノまで歩いて行く。 マコトはそれを黙って見守った。 ピアノの前に立ち、蓋を開ける。 右手で『レ』と『ファ』の和音を弾いた。 アヴェ・マリアの右手の最初の音だ。 「………」 また同じ音を弾く。 そしてゆっくり次の『ファ』と『シ』フラットと、アヴェ・マリアの右手の和音を弾き始めた。 「ぎこちない…。ろくに指…動かなくなってる…」 小さく呟き、動かなくなった左手を鍵盤に乗せ、出来る限り右手で親指と小指を広げ、『シ』フラットのオクターブを弾こうとした。 しかしオクターブまで指が開かない。 「……悔しいな…」 頭を下げ、右手で左手を適当な鍵盤に押し当てた。 こんな左手になってしまった事に改めて悔しさを感じ、葵は口をキュッと結んだ。 「俺がスパルタレッスンしてやる」 マコトが鍵盤の左側にやって来た。 そして『シ』フラットのオクターブを弾く。 「葵。右手…」 「……」 葵は返事をしない。 右手も弾かない。 「弾かなかったらもっと弾けなくなる。左手は俺がいつでも弾いてやる。右手でだけは絶対に怠けさせるなっ」 マコトはあえて厳しい言葉を投げかけた。 「……うん…」 葵を抱き寄せて椅子に座らせマコトも座る。 「もう一回。ゆっくり、最後まで弾いてみよう」 「うん…」 葵は深呼吸し、気持ちを切り替えた。 そしてゆっくりとアヴェ・マリアが奏でられていく。 葵は一生懸命右手を弾く。 マコトはそれに合わせいく。 そして自分で付けた英語の歌詞を軽く口ずさむ。 それを聴き、葵は心が温かくなるのを感じた。 マコトが自分の弾いている音に合わせて歌ってくれている。 自然と笑顔になった。 躓きながらも何とか最後まで弾ききった。 「ほらね。これだけ弾けるんだ。毎日必ずピアノは弾くんだよ?」 「うんっ…」 「じゃ、約束のキス、しよ…」 マコトは葵の頭を支えて優しくキスをした。 葵が少しピアノを練習した後、マコトが夕食を作り始めた。 夕食を作るマコトを葵が出来る所だけ手伝う。 とても楽しい時間だった。 二人で夕食を食べ、今夜は一緒に風呂に入った。 「葵…。体冷えないうちにベッド行こ…」 「うん…」 風呂から出て間もなくマコトが葵を寝室へ連れて行った。 「このベッド…久しぶり…」 葵がゆっくりとベッドに腰を掛けた。 マコトも隣に座る。 「冬物に変わっただろ?シーツも保温性あるから、ぬくぬくして寝れるよ〜」 マコトが葵の唇にキスをする。 「んっ…」 しばらくそのままキスをする。 しかしマコトが段々と葵をベッドに押し倒して行く。 「この日を…ずっと待ってたの…」 「うん…。俺もだよ…」 仰向けにされた葵が右手で左腕をマコトの肩に乗せた。 左手が落ちないようにマコトが押さえておいてやる。 その間に葵が右手でマコトの首の後ろから左手を掴む。 「葵に抱き締められてる…」 「嬉しい?」 「うん。嬉死するかも…」 「ダメっ…んっ…」 マコトの激しいキスが始まった。 葵もそのキスに応えていく。 マコトがキスをしながら葵のパジャマの中に手を入れ胸を揉む。 「んんっ…」 久しぶりの葵の喘ぎ声を聴き、マコトの興奮が止まらなくなる。 ほとんど治っている葵の骨折部分に気を付けながら、マコトはスキンシップを続けた。 気付けば葵のパジャマは首元まで捲りあげられ、ブラジャーのホックも外されていた。 マコトは一度キスを止め、ベッドに横向きの状態で仰向けになっている葵の体をちゃんとした向きに抱きかかえて直した。 ついでにパジャマを全部脱がせ、ブラジャーも外す。 「久しぶりに葵の体見たね…」 「傷だらけになっちゃった…」 葵が切ない顔で腕の傷跡を見た。 「すげぇ綺麗なままだよ…。俺だけの…葵の綺麗な体…」 ベッドに伸びた細い左手をマコトが擦った。 それを見て葵が悲しげに微笑んだ。 「もう…、動かないね…」 「俺が代わりになってやるから心配するな…。今夜はお祝いするんだろ?もっと楽しもう…」 「うん…」 葵はマコトに乳房をしゃぶられ、膣の中を刺激され、あっという間に快楽に溺れていった。  やっぱり…真言君とのセックス…、大好き… いつもより長い前戯の後、マコトが葵の中に挿入してきた。 「んあぁぁっ…」 久しぶりの感覚で、少し痛かった。 しかしすぐに気持ち良さが押し寄せ、葵は右手でマコトの髪を握った。 そして顔を近付けさせ、キスを求める。 「俺のキス…欲しいの?」 挿入し、ピストンしながらマコトがニヤッと笑った。 「うんっ…。早くっ…」 マコトはすぐに葵にキスをしてやった。 キスをしてもらいながらマコトに挿入され、たくさんピストンされる。 あまりの気持ち良さで、頭の中が溶けてしまいそうな、痺れるような感覚になる。 葵とマコトにとって、最高の退院祝いとなった。
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