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会場の照明が調整され、暗くなった。
ざわついていた会場が一気に静かになる。
場内に重低音が響き始める。
次にドラムが鳴り響き、ステージが少しライトアップされた。
ステージの奥でドラムが演奏されていた。
歓喜の声が沸き起こる。
ドラマーもそれなりに有名人の様だ。
次にギター、サックス、アコーディオンなど数人が演奏に加わる。
そしてチェロ。
沖田桂樹だ。
少しの間、そのメンバーで演奏が続いた。
会場は盛り上がり、手拍子が響く。
そして。
ステージ下手から普通にマコトが登場した。
もっと派手な登場を想像していたので、あまりにも普通の登場過ぎて葵は目を疑った。
衣装も至ってシンプルな白いTシャツにデニム姿だ。
しかしファン達は一斉に黄色い声を上げ、物凄い盛り上がりを見せた。
マコトはアリーナ席や観客席に大きく手を振りステージ中央にあるグランドピアノまで歩いて行く。
そして椅子に座り、メンバーの演奏に加わる。
「あっ…」
その曲は葵も良く知っているマコトの代表曲の一つだった。
今までその曲をアレンジしてメンバーが演奏していた様だった。
マコトは歌うこと無くメンバーと演奏し続ける。
初っ端から物凄い盛り上がりを見せる。
関係者席の人達も立ち上がって手拍子し、杏奈も涙を浮かべてマコトを見入っていた。
そしてその一曲目が終わった。
『東京ドームへようこそーっ!こっから一気に演奏していくから、みんな付いてきてねーっ』
マコトが一言話しただけで会場からキャーキャー声が上がる。
それを無視してマコトがドラムと演奏し始めた。
もちろんマコトも歌う。
葵も知っている曲だ。
葵はマコトの演奏と歌をジッと見続けた。
テレビで観る時とノリが全く違う。
どちらかと言えば、マンションで演奏してくれた時の歌い方に近い。
緊張感が無く、親近感が湧く演奏だった。
曲はどんどん続けて演奏されていく。
途中、メンバー紹介もし、更に盛り上がって演奏は続いていく。
モニターに映るマコトは額や首から汗が流れ落ちていた。
たまに葵の知らない歌もあった。
恐らくアルバム曲だろう。
杏奈を見ると、どの曲もノリノリで、一緒に歌っている。
30分以上、ぶっ通しでマコトは歌い続けた。
『いやぁ〜っ…。気合い入れ過ぎて喉枯れそうっ』
演奏が終わり、マコトがマイクを持って立ち上がった。
やはり観客席から色々な声が飛ぶ。
『えっ?ははっ…。嘘だよぉ〜。こんなんで俺の喉が潰れるワケねぇだろっ?』
キャーキャー声が上がる。
真言君、ライブ中はこう言う喋り方するんだ…
葵に話をする時と同じ様にマコトはファン達に話をする。
『じゃぁ、次はぁ…』
マコトが桂樹の側に行き、肩を組んだ。
『桂樹とセッショーンっ!どお?みんな聴きたい?』
照れながら桂樹が笑っていた。
「桂樹ーっ!」
「聴きた〜いっ」
ファンの声が次々と聞こえてきた。
『OK!というワケでぇ、桂樹、よろしくねぇ〜』
桂樹の肩をポンポンと叩き、マコトがピアノの前へ戻った。
桂樹もピアノの近くに移動し、椅子に座る。
二人で顔を見合い、頷く。
「ワン・ツー・スリー・フォーッ」
マイクから離れた所でマコトが桂樹に合図した。
そしてピアノとチェロの演奏が同時に始まる。
ラテン系の曲調で、アップテンポでとても格好良い、やはりノリの良い音楽だ。
マコトは英語で歌い始めた。
本当にピアノとチェロだけの曲。
良くもまぁ、こんなにも沢山の曲を弾きこなし、歌っていくな。と、葵は感心していた。
そしてどの歌も本当に綺麗だし、中にはドスの効いた声で歌い上げられていく。
桂樹とのセッションが終わり、次々と他の楽器とセッションしていく。
気付けばライブが始まってから一時間以上経過していた。
もう半分過ぎちゃったんだ…
ずっとこの空間にいたい。
葵はいつの間にかそう思う様になっていた。
そしてMCに入った。
『いやぁ〜…。さすがに歌い過ぎぃ。そしてこれからみんなとおしゃべりタイムでしょぉ〜?ちょっと休ませてよぉ〜』
「ダメぇ〜っ!」
「お疲れ様〜っ!」
「もっとマコトの声聴かせてぇっ!」
またファンの声が上がる。
『桂樹〜っ。ちょっと俺の代わりに喋ってくんない?』
マコトはわざと桂樹に振った。
『いやいや。これはお前のライブだろ。僕はただのサラリーマンだから無理っ』
マイクを持った桂樹が笑いながら答えた。
「桂樹の部下になりたーいっ!」
『いや、僕に部下はいないよ…。一番下のヒラ社員だから…』
桂樹の答えに会場が笑いに包まれる。
『嘘つけぇっ。桂樹さ、俺には「最短で部長になってやるっ」とか言ってるくせに、本当はやり手なんだろ〜?』
拍手が沸き起こる。
マコトのファンの中では桂樹も人気だった。
マコトの親友と言うのもあるが、マコトとは真逆の見た目と、もの静かなところ、チェロの高度な演奏技術が人気の理由の様だ。
マコトが桂樹と話を続ける。
他のメンバーにも振り、どのメンバーも喋らされていた。
その後はずっとマコトが喋り続け、ファンとの交流をしていった。
葵は家でマコトと話している様な感覚になってしまった。
後半はほとんどマコトのソロ演奏だった。
たまに少し喋り、また演奏する。
それを何度か繰り返す。
そしてライブは間もなく終了する。
『今日はみんな来てくれてありがと。じゃぁ、最後の曲は…俺のデビュー曲で締めようかなぁ』
歓喜の声と拍手が沸き起こる。
星が切なくキラキラ輝くような高音が響き始めた。
『My Little Blue』
前奏だけで葵は涙が出て来た。
以前のクリスマスの音楽番組で歌っていたアヴェ・マリアの様な、鳥肌が立ち続ける様な綺麗さ。
そして言葉に出来ない感動。
演奏が終わった時は杏奈も含め、周囲には涙を拭っている人が何人もいた。
こうしてマコトのライブはあっという間に終わってしまった。
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