14年前の約束

葵が事故に遭ってから一年が過ぎた10月。

阿部マコトの事務所から報道関係者たちに一枚のFAXが送信された。

──報道関係者各位

弊社に所属しております歌手の阿部マコトが、予てより交際しておりました一般女性と本日入籍したことをご報告させて頂きます。
結婚に関する阿部の記者会見等の予定は御座いません。
阿部本人からも、本日中に弊社のホームページを通しコメントを発表する予定です。

今後も阿部マコトの活躍を温かく見守って頂けたら幸いで御座います。──

それから一時間後。
マコトの事務所のホームページに阿部マコトのコメントが発表された。

──私事では御座いますが、私、阿部マコトは以前から交際していた女性と、27歳になった彼女の誕生日である本日入籍しました。
小学生の時からお互い想い続け、14年間離れ離れになり、一度は絶望を味わい、再会出来たにも関わらず、彼女が大きな事故に遭い、決して順調な生活とは言えない物がありました。
ですが、私達はそれでもお互いを信じ、支え合い続け、小学生の時に約束した事を遂に果たせる日を迎えました。
挙式は身内だけで行う予定です。
二人の意見が一致し、子供は自然に任せることにしました。
私は皆様の応援を沢山頂き、ここまで成長する事が出来、皆様への感謝は常に感じております。
結婚後も私はさらなる飛躍を目指し、努力研鑽していく所存です。
まだまだ未熟な私達ですが、これからも温かく見守って頂けたらと思います。

10月10日　　阿部マコト──

コメントと一緒に一枚の画像が添付されていた。

マコトと葵の右手が並んでいる画像だ。
その薬指には、婚約指輪と同じブランドの結婚指輪がはめられていた。
プラチナの少し捻れた形の指輪には、とても小さなダイヤが5つ付いており、濃さの違うアイスブルーダイヤがグラデーションに並んでいた。

葵が左手に障害を持っている事は、ファンの間では知れ渡っていた。
この画像を見たファン達は、後に、右手に結婚指輪をはめる事を『マコトスタイル』と呼ぶ様になった。
ファンが結婚すると、自身のSNSに右手に結婚指輪をはめた画像を載せる。
ファンの間でそんな事が流行っていった。