おっさんは負けない

この世界は一年のほとんどが真っ暗闇である。
陽光が降り注ぐことなど、稀だ。
しかし寒いかというとそうではなく、日がな一日ぬくぬくと暖かい。

明りがなく体が温まる。すると当然の帰結として、この物語の主人公‶おっさん″は良く寝た。
惰眠をこれでもか！　と貪(むさぼ)っていたが、年がら年中寝るのも飽きてくる。
久しぶりに体を動かして、健康的な労働をしよう。

おっさんは突きでた太鼓腹をパチンと叩き、気合をいれて立ち上がった。
筋金入りの怠け者にはこういった儀式が重要なのだ。

本格的な寒波が訪れるまえに一度、世界には雨が押しよせてくる。
──どう乗り切るか。
おっさんは何度か体験済みであるが、慣れることはない。前回などは映画タイタニックの主人公よろしく、水中に沈んでいくところであった。

しかし今回は、考えがあった。
ある日おっさんが散歩していたら、道に特大サイズの骨が落ちていたのだ。大きさにして彼十人分はあるであろう、先端のとがった骨。
大きな動物の死骸の一部だろう。すると、これを食べた走召巨大肉食獣があたりにいるはず。

おっさんは身をかがめて周囲を見渡す。
生物の気配はない。
どうやらもう遠方に立去ってしまっているのだ。

心の底から安堵した後、おっさんは雷に打たれたように閃(ひらめ)いて、身体を震わせた。その刺激で放屁もした。
その音を、誰かに聞かれぬように「おのれの優秀さにびびったあ！」と大声をはる。

おっさんは道端から大きめの石をひろい、骨を入念にけずり始めた。

まず足をかけるための穴を数か所つくり、骨にするすると駆けあがれるようにした。
それから上部に人が横たわれる、浴室のようなスペースを作ったのだ。
骨の船の出来上がりである♪