プロローグ

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『ダンジョンの現状をばご説明いたします。現在、ダンジョンにはこの部屋だけが存在しています。部屋は地表から20メートルの深さの地下に埋まっており、外界との接続は遮断された状態です。あと3日ほどでタイムリミット――つまり、保護期間が終了し、外界と強制的に接続します。そうなれば……』 「外界から俺を殺したいやつらがワラワラやってくるってわけか」  俺の命を巡る、世界との戦いが始まるんだな。つまり――厨二的展開!! 「面白くなってきやがったぜ……!」  口元に垂れたよだれをひじで拭いながら少年を言った。よだれは、侵入者を迎撃するのです、と聞いた瞬間自然と垂れたものだ。少年は厨二病であるので、侵入者とのバトルと聞いて思わず垂涎してしまった。 『その通り。理解が早くて助かります。ですから貴方様はリミットまでに①“ダンジョンの設備を拡充・拡張”し、さらに②“魔物の生産・強化”を行い、侵入者を撃退する準備をしなくてはなりません。トラップを仕掛け、魔物を配置し、侵入者を迎え撃つ、迷宮の創造主。それがダンジョンマスター』 「なるほど。だいたいわかったよ! あと3日したら敵がやってくるから、おれの能力を使って撃退する準備を整えろってことだろ?」 『その通りです。ご理解いただけて良かった。さて。閑話休題といこうじゃありませんか』  閑話休題。余談を止めて話を本筋に戻すことの意である。さて、何の話をしていたんだっけ? 少年は記憶をたどり、そして思い出した。 「ダンジョンマスターの真骨頂“マモノの生産”だな?」 『はい』 「やっぱりあれか? いけー10万ボルトだー! みたいな感じの俺に忠実な魔物がでてくるわけ?」 『えっと。それは……どうなんでしょう?』 「え? どうした、不安になるじゃないか!」 『魔物の性質は様々です。強い種、弱い種、頭がいい種、悪い種、乱暴な種、温和な種……。気をつけないと、自分が生み出した魔物に殺されるなんてこともあるらしいですよ』 「なんだって!?」 『ま、そんな例もあったって話です。今回もそうなるかどうかは実際に呼び出してみないとわかりません。さて、実践と行きましょうか。ここでやっと“本”の出番です。本を開いてみてください』  少年は本を開いた。すると背表紙に刻まれたヘルメス・トリスメギストぶひぇの文字が輝き出し、開いたページが青白く輝き始めた。 本全体が青く輝き、漏れ出た光が部屋全体を照らす。光に沿って大気も流れ、吹きつける強い風が少年の髪を揺らした。 「どうなってんの!? なんでこんな光ってるわけ??」  少年は開いたページを見た。正確には開いたページで光る文字列を読んだ。 “ようこそ! ヘルメス・トリストメギストぶひぇ様!”  文書を読み上げると同時に頭の中で声がした。 『この光は“ダンジョン目録”の起動に伴うもの。もうすぐ落ちつくはずです』  しばらくすると声の言う通りになった。発光が止まり、それとと同時に、“ようこそ ヘルメス・トリストメギストぶひぇ様!”の文字も消えて代わりに羊皮紙然とした白紙、その上に手書き風のインク文字が浮かび上がっていく。 ----------------- “ダンジョン目録” もくじ 1.クリエイタビリティ……1ページ ①設備 ……2ページ ②消費アイテム……3,000ページ ③装備アイテム……7,000ページ ④魔物 ……10,000ページ 2.ステータスチェッカー……30,000ページ ①所有ポイント……30,001ページ ②ダンジョンマスター……30,002ページ ③設備……30,003ページ ④アイテム……30,004ページ ⑤魔物……30,005ページ” ----------------- 「“ダンジョン目録”……!?」 『はい、そうです。あなたにできることが“全て”記されたカタログです。加えて現状のステータス確認が可能です』  少年はパラとページをめくった。全てのページが細かい文字でびっしりと埋め尽くされている。パラ。ページをめくる。次のページも文字で埋め尽くされている。ページをめくる。パラ、パラ、パラ。文字、文字、文字。 「なんだこれ! 文字だらけで吐きそうだぜ! めくってもめくっても本の終わりが見えない!」 『当然です。全部で30,005ページありますから。ですが覚悟して読んで頭に叩きこんでください。この本を使いこなせるかどうかに貴方の命がかかっているのですから』  30,005ページ。読破するのに一体何時間かかるのか。少なくともリミットまでに読み終わるのは不可能だろうと少年は悟った。 文字は適当に流しながら少年はページをめくっていく、そこで気づいた。 「なんかさあ。空白のページがかなりあるんだよな。特に装備品や魔物の箇所はほとんど空白だぜ?」 『……それには深いわけがあるのですが、まあ現時点で説明するのはよしましょう。あなたがダンジョンマスターとして成熟すればおのずと埋まるとだけ言っておきます』 「なんだよ、思わせぶりだな。なにか裏があるんじゃないかって疑っちまうぜ」  頭の中の“声”が説明を渋る。そんなことは初めてだったので少年は僅かに困惑した。 この”声”。少年の待つ能力――ダンジョンマスターそのものだと自称していたが、果たしてどうなのだろうか。ずいぶん言葉を交わしたが、この”声”が自分の能力だと確信が持てない。 頭の中に他人がいるような感覚がするのだ。そのことに少しばかり不安を感じていると、“声”が申し訳なさそうに言う。 『……。本来、その本に空白は無かったのですが、ある出来ごとにより“ページの一部を奪われた”のです。なのでそれらのページは現在空白になっています』 「奪われた……?」 (どういうことだってばよ!?)  その言葉は声にならなかった。  “声”は自分の能力そのもの、つまり“おれ”自身だと。そう言っていた。 だとすれば。“ある出来事”に巻き込まれ、“ダンジョン目録”のページを奪われたのは、記憶を失う前の“おれ”なんじゃないのか。  つまり。“ある出来ごと”。それは“おれ”の過去と密接と関わっていることになる。  だというのに、“声”は“ある出来ごと”などと、説明をぼかした。 そこに違和感がある。 なぜだろうか。なぜ“声”は説明をぼかしたのだろうか。  少年は頑張って考え、2つの仮説を導きだした。  ①。“おれ”に過去を思い出させたくない。もしくは“おれ”に過去を思い出されると都合が悪い。  ②。“ある出来ごと”は“おれ”には関係のない出来ごと。だから説明する必要が無い。  どちらが正しいにせよ、どちらも間違いであっても。つまりこれって……。  探りを入れる必要があるな。少年はそう思った。だから敢えてツッこまず、話題をやんわりと元に戻す。 「なんかよくわかんねえけど。それでなんか問題あるのか?」 『呼び出せるアイテムや魔物の種類が減ります』
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