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1 彼と生徒会長
夏らしい燦々と降り注ぐ陽光が窓越しに私の顔を照らした。カーテンを閉めてもその隙間から光は漏れ出して、結局机の上にまで届いてしまう。頼まれて黒板の整理を手伝う傍らで光は少しずつ影も伸ばしている。
一番前の席で次の授業の準備をする。
机の上に重ねた教科書とノートに貼られた付箋は予習の成果の証だった。一番が大好きな私は、何でも人以上にこなさないと気が済まない。
最近、私は一つの大きな悩み事を抱えている。
同じ列の一番後ろの席で窓際から外の景色を眺めている越後くん。私が手を振ると一度は見てくれるけど、直ぐに目を逸らしてしまう。丸眼鏡に分厚いレンズがくっ付いた、今まであまり関わった事がない人だ。
その越後くんの制服のズボンの右ポケットが膨れ上がっている。オーブンで丸餅を焼いた時みたいな丸みを帯びた膨れ具合だ。誰も指摘しないから余計に何があるか気になってしまって授業に手が付かない。二日前には夢にまで出てきてしまった。
「早く中身を知らないと……夜しか眠れないなあ」
「めちゃくちゃ爆睡してるじゃん」
隣の席の中村さんがノートを丸めて私の頭を軽く叩く。両腕を上げて大袈裟に痛がると脇腹を擽られた。
「まさか最奥中学校の生徒会長さんが、あんな地味根暗に恋するなんてね」
「コイ? 三枚おろししかできないよ?」
中村さんが何故か溜息をついて退屈そうな顔をしている。何か気に障るような事をしてしまったのかもしれない。取り敢えず機嫌取りにチョコマシュマロを渡す。私は鞄からミニ双眼鏡を取り出して越後くんを観察する。窓に反射した無表情が一瞬こっちを向いた気がした。
「……前野さん、それ何?」
「双眼鏡だよ。偵察には必要不可欠の必需品だよ」
「ええ……この人が生徒会長で大丈夫なのかな……」
チョコマシュマロを食べる中村さんの溜息が、さっきより大きく聞こえてきた。チャイムが鳴るまで観察は続いて、遂に目が合う事は無かった。
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