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「そりゃ興味も無いよな。僕如きの事なんて」
私は名女優にはなれない。ここで彼の心の痛みを意図的に無視して、これからも仲良くしようなんて言葉は口が裂けても言えない。猫の喧嘩みたいに時が経てば自然解決する類の話でもない。心がカーテンに隠されて光が当たらない。彼から開けてくれる訳も無かった。そのきっかけを私はここで踏み潰したのだから。
「もう二度と近付くなよ。次変な事したら盗聴された事、皆にバラすから。って誰も信じないとは思うけど」
「越後くん、私は……」
「もう良いよ。僕に優しくして内申点でも稼ごうとしたんだろ? もう分かったから」
私が手を伸ばしたのを力強く払い除けて、彼は去っていった。叩かれた指先が微かに痺れている。何と答えれば良かったのか分からない。というか何を答えても結末は変わらなかったように思える。湯を入れる前に薬缶を沸かしてしまったように、どう足掻いても改善はしなかっただろう。私達の間柄はせいぜい『クラスメイト』止まりなのだから。
「……どうしたものかなあ」
私は賢い。
私は声が大きい。
私は運動が得意だ。
私は人より少しだけ努力出来る。
全部自覚して良点だと受け止めている。でも私が優秀であればある程、きっと越後くんは深く傷付くのだろう。「何も出来ない」なんて言葉を自分自身にかけている位だ。自己肯定感が地に落ちているのが分かる。
彼は賢い人なのか馬鹿な人なのか。
彼は声が大きいのか小さいのか。
彼は運動が得意なのか下手なのか。
彼は努力家なのかサボり魔なのか。
一度だって彼の事を知ろうとはしなかった。いくら外面を観察したってその人の中身までは分からない。聞かないといけない事は沢山あったのに、私は彼の人柄よりも自分の知的好奇心を優先した。
越後くんを、結果的に無視し続けてしまった。
その日から彼は今まで以上に私を避けた。私も観察を中止した。ポケットの中身を聞く資格すら最初から持ち合わせてなかった。
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