3 彼と私

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「ずっと見てた……?」  越後くんに近付くなと言われてから二週間は経っている。その間は双眼鏡も学校に持ち込まなかったし、意図的に目を逸らしていた。中村さんの言葉が嘘じゃないとしたら私は無意識に越後くんの顔を見ていた事になる。  ポケットの中身を知りたいから?   いや、そんな資格は無いと結論付けたばかりだ。かといって別の理由があるのかと考えるが何も思いつかない。 「……前野さん?」 「あっ、ごめん」  前の席の男の子からテスト用紙が渡される。今日の問題はスペルの並び替えと穴埋めだ。来週の模試用に勉強を進めていたのでテスト用に予習はしていないが、特に問題は無い内容だろう。  一通り解き終えて、後ろの席から用紙が回ってくる。こっそりと越後くんの回答を覗き見る。二問、間違っていた。 「マジで人生終わったかと思ったよー」  授業が終わり、昼休みに入った。中村さんは放課後の補習に怯えて今から単語の予習をしていた。その暇があるなら最初からやっとけば良かったのに、と思って、事情があったんだろうなと思考を打ち止めた。こんな事を考えるなんてやはり私は性格が悪い。 「今から人生終わってきます……」 「終わらない程度に頑張ってね!」  放課後、涙目の中村さんが下を向きながら教室を後にした。結局単語帳を投げ捨てて色んな生徒とお喋りしていた。  天気雨は本降りに変わって、分厚い黒雲が空という天井を覆い隠している。校舎と校舎を繋ぐ廊下ではサッカー部がストレッチをしていた。いつもの道で自転車を取りに行くと雨に濡れてしまうので、回り道して屋根があるルートを通った。それが全ての間違いだった。 「あっ、丁度良い所に!」 「ヤラカシター」  生徒会担当の先生に呼び止められて、来年度の生徒会選挙の準備を半ば強制的に手伝わさせられた。頭の中で私と踊っていたパンケーキとポテトフライに(もや)がかかって消えていった。
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