3 彼と私

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「正直、君の言ってる事全部を理解してあげられない。励ましても慰めても、結局傷付いちゃうよね」  彼は「そうだな」といやらしく微笑む。そのままストップウォッチがカウントを始める。今度は数滴の間を開けて私が喋り始める。 「越後くん、将棋が好きでしょ?」 「……何処で知ったんだ?」 「ちょっと情報通の知り合いからね」  中村さんがこっそり教えてくれた情報。将棋の駒がポケットから転げ落ちているところを見たと。何で将棋駒を持っているのか聞くと、御守り代わりに肌身離さず持っていたいからだと教えてくれたらしい。 「勉強も運動も私の方が出来るけど、将棋は勝てる気しないなあ。それに、身長も越後くんの方が高いし」 「……そんなの意味無いだろ」 「かもね。でも、私もある意味じゃ君の後ろにいるって事だよ。それに……」    言葉を紡ごうとした刹那、雲の隙間から彗星が見えた。瞬きの間に隠れてしまったが、確かに見えた。 「あ、彗星だ!」 「はあ? 雲だらけで見えないぞ」 「でも本当に見えたんだよ!」  目を細めて空を仰ぐ越後くんが少しだけ笑った。双眼鏡を持ってきていたら私が正しいと証明できるのにと後悔した。 「見逃しちゃったけど、前にいても後ろにいても空があれば彗星は見えるよ。でしょ?」 「そりゃそうだけどさ……」 「何処に居ても、越後くんは越後くんなんだよ」  越後くんの事を何も知らないが、生きている限り空は存在して、陽光も月光も星々も彗星もいつかは姿を表す。カーテンで自分を隠しても、光は隙間から照らしてくる。ポケットが服の種類によって位置を変えるように、そこには貴賎も上下も無い。 「生徒会長を誤解してたよ。僕が思ってた五十倍は馬鹿だったんだな」    悩みが完全には晴れた訳では無いとは思うが、少なくとも今、彼は笑えている。 「よし! それじゃポケットの中身見せて」 「はあ!? ……でも、相談に乗ってくれたしなあ。絶対に笑わないって保証できるならいいけど」 「出来るだけ努力するよ」
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