第一章

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「でもさ、ということは私達の上司が不在ってこと? 似鳥くんはここで何をするか詳しく聞いてる?」  私がそう尋ねると似鳥くんは首を振った。  机が三つ。窓際に一つ置かれた大きな机は森川課長の席だろう。残りは二つ。似鳥くんと私。私達が何をするかわかってないならこれはもうどうしようもない。 「じゃあ、せっかくだから奥のとこ掃除でもしよっか」私は奥に乱雑に置かれた物を指差した。 「まあ、それが先決かもしれないかな」似鳥くんはそう呟いた。  その時だった。部屋の扉が突然開けられた。 「──パソコンはもう使えるようになってるのか?」  私は驚いてその姿を凝視していた。似鳥くんも返事を忘れて固まっていた。 ズカズカと音を立て窓際の机の前まで進んで行く。そして軍隊のようにくるりと綺麗な姿勢で振り返った。 「森川課長は育休取得中だ。その間この課を兼務する真壁だ、よろしく」  そこに立っていたのはこの課の発案者アメリカ帰りのイケメン専務だった。  専務は私達に席につくように指示すると、さっさと用意してきたレジュメを配布した。 「この課は私のたっての希望で設立された課だ。総務部に所属することにはなるが、基本的に総務部を通すことなく私に直接あげてきて欲しい」  専務は滑舌よくはっきりと聞き取りやすい声で話し始めた。その堂々とした姿は人前で話すことに慣れているように見えた。  まあ、イケメンで頭も切れるなら物怖じなんてしないか。  イケメン専務改め真壁専務はこの課の設立の経緯を説明し始めた。それは三課の課長から聞いていたこととほぼ同じだった。 「質問です」話が切れたところで私は手を挙げた。 「あ?」 「あのー、すぐやる課って広く知られているのは役所じゃないですか? スズメバチの巣の撤去とかハブの退治とか。すぐやる課を設置してる企業もなくはないですけど、それって顧客のニーズを素早く活かすために行われてることが多いですよね? だったらそれって開発とかの仕事じゃないですか?」 「早乙女さん。スズメバチはビルに巣は作らないよ」似鳥くんが突っ込んできた。 「それはそうだろうけど」 「あ、でも水道メーターの中とか放置された家具とかの中には巣を作るらしいから絶対ここに作らないとはいえないか」 「なにそれ怖い」  不自然な咳払いが聞こえた。あ、専務が話してる最中だったか。 「質疑応答は後からまとめて時間を取るから話は最後まで聞くように」  真壁専務は機嫌悪そうにそう告げた。
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