そして和菓子の花が咲く!

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 金曜日。  とうとう、コンテストの受付締め切り日になった。  昨日のうちに焼き上げ、ラップで包んで一晩寝かせたカステラは二枚。指で押してみるとしっとりしている。無事、乾燥は防げたようだ。白あんもできあがり、あとは仕上げをするだけだ。 「――よっ……と」  生地を広げてあんを塗り、イチジクと柿を並べたものを慎重に巻いていく。  知らず知らずのうちに息を止めていた。少しでも力加減を間違えたらやり直しだが、作り直す時間は、もうない。  焦るあまりに手が滑りそうになる。一度、深呼吸をしてから、改めて両手に均等に力を入れる。    余計なことを考えるな。慎重に、慎重に――……。 「何してんのー? ねー、美桜!?」 「――わーっ?!」  突然背後から話しかけられ、思わず手を放してしまった。丸まりかけていたカステラが、息を吐くようにスーッと元に戻ろうとする。 「きゃーっ!!」 「わーーっ?」  とっさにカステラをつかんで、一息に丸めて全体を押し付けた。 (や、やってしまったかも――……っ!?)  息をのんでカステラを見守る。しばらく凝視してみたが、運よくきれいに丸まったように見えた。 「――き、奇跡……っ!」 「……あー、なんか、邪魔しちゃった……? ごめんね、美桜?」  一息ついて闖入者(ちんにゅうしゃ)を見ると、ミヤちが片目をつぶって両手を合わせ、「ごめん」というジェスチャーをしている。その後ろでは、トモヤがばつの悪そうな表情で頭をかいていた。 「トモヤまで……。どうして?」 「いや、ちょっと様子見に――」 「やー、なんかここんとこ、美桜、変だったじゃん?」  トモヤが説明をしようとしたのを遮って、ミヤちが言った。 「最近、話しかけても生返事だしさ、気になってたんだよね。そしたら昨日、あいつが下校してるのを見かけたんだ。でも、美桜、いつも通り部活に行ってたし、どうしたのかと思って。で、今日様子見に来たら、今度は廊下からこっそりのぞいてるじゃん? 声掛けたら逃げちゃったけど、なんかおかしなことにでもなってんのかなって心配になってさあ……」 「覗いてる? それって、誰が……」  ――まさか。  頭の中が一瞬、真っ白になった。ミヤちがきょとんとして首をかしげる。 「誰って、だから立花が――って、美桜!?」 「ごめん! ちょっと、行ってくる!」  あたしはエプロンをつけたまま、家庭科室を飛び出した。
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