28人が本棚に入れています
本棚に追加
金曜日。
とうとう、コンテストの受付締め切り日になった。
昨日のうちに焼き上げ、ラップで包んで一晩寝かせたカステラは二枚。指で押してみるとしっとりしている。無事、乾燥は防げたようだ。白あんもできあがり、あとは仕上げをするだけだ。
「――よっ……と」
生地を広げてあんを塗り、イチジクと柿を並べたものを慎重に巻いていく。
知らず知らずのうちに息を止めていた。少しでも力加減を間違えたらやり直しだが、作り直す時間は、もうない。
焦るあまりに手が滑りそうになる。一度、深呼吸をしてから、改めて両手に均等に力を入れる。
余計なことを考えるな。慎重に、慎重に――……。
「何してんのー? ねー、美桜!?」
「――わーっ?!」
突然背後から話しかけられ、思わず手を放してしまった。丸まりかけていたカステラが、息を吐くようにスーッと元に戻ろうとする。
「きゃーっ!!」
「わーーっ?」
とっさにカステラをつかんで、一息に丸めて全体を押し付けた。
(や、やってしまったかも――……っ!?)
息をのんでカステラを見守る。しばらく凝視してみたが、運よくきれいに丸まったように見えた。
「――き、奇跡……っ!」
「……あー、なんか、邪魔しちゃった……? ごめんね、美桜?」
一息ついて闖入者を見ると、ミヤちが片目をつぶって両手を合わせ、「ごめん」というジェスチャーをしている。その後ろでは、トモヤがばつの悪そうな表情で頭をかいていた。
「トモヤまで……。どうして?」
「いや、ちょっと様子見に――」
「やー、なんかここんとこ、美桜、変だったじゃん?」
トモヤが説明をしようとしたのを遮って、ミヤちが言った。
「最近、話しかけても生返事だしさ、気になってたんだよね。そしたら昨日、あいつが下校してるのを見かけたんだ。でも、美桜、いつも通り部活に行ってたし、どうしたのかと思って。で、今日様子見に来たら、今度は廊下からこっそりのぞいてるじゃん? 声掛けたら逃げちゃったけど、なんかおかしなことにでもなってんのかなって心配になってさあ……」
「覗いてる? それって、誰が……」
――まさか。
頭の中が一瞬、真っ白になった。ミヤちがきょとんとして首をかしげる。
「誰って、だから立花が――って、美桜!?」
「ごめん! ちょっと、行ってくる!」
あたしはエプロンをつけたまま、家庭科室を飛び出した。
最初のコメントを投稿しよう!