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(ま、毎日、疲れる……)
机に突っ伏しながら、頭の上で授業終了のチャイムを聞く。
自分で部活を立ち上げるくらいだから、和菓子の知識はそれなりにあるのだと思っていた。が、ここ数日の様子を見ると、どうやらそうではないらしい。
それどころか、正真正銘のど素人である。これでは、毎年バレンタインに友チョコをつくる程度の自分の方がマシかもしれない。
毎日おいしいお菓子を食べられる楽しい部活みたいな言い方をしておいて、実体はとんでもなかった。つまりは味見という名の毒見なのだ。これでは罰ゲームや拷問と言った方が正しいのではないだろうか。
重い体に鞭打って、のろのろと体を起こす。すると、ミヤちが声を弾ませて近寄ってきた。
「ねー、ねー、美桜! 今日、トモヤといつものとこ、寄ってこーよ!」
おいしくて「映える」クレープ屋が、あたしたちの最近のお気に入りだ。今日もそこに行くのかと思うと、おいしくないものばかり食べてすさんだ心がぐらっと揺れた。
「あー、でもごめん……。今日も部活なんだ……」
がっくりと肩を落とす。すると、ミヤちが驚いた声を出した。
「えっ、美桜、まだ料理部続いてんの!? もう一週間くらい経つんじゃない!?」
新記録じゃーん、と完全に冷やかしの口調になった彼女を、恨みがましくにらみつける。
「ミヤち……。行けって言ったの自分じゃん」
彼女も例外なく、料理部に殺到して一日で辞めた女子の一人である。さらに、あたしに料理部行きを勧めた張本人だ。
「ごめん、ごめん。だって、そんなに頑張るなんて思わなくて。美桜なら、嫌ならすぐにきっぱりはっきり断れると思ったし」
「……それは、まあ……」
断った。断ったはずだ。でも悔しいことに、ヤツの方が一枚上手だったのである。
「それにほら、立花って、一応ちゃんとイケメンだったじゃん? 頭いいのは間違いないし、志望大学もS大だっていうし! 性格に目をつぶれば、かなりいい物件だと思うよ?」
「目をつぶればって、そこ、一番重要じゃない?」
言いつくろうミヤちを死んだ目でちらりと見やると、彼女はばつの悪そうな顔になった。
「だから、ごめんって~。あたしだって別に、美桜をイケニエにしたかったわけじゃないよ? 美桜が珍しく男子に興味示したからさ、じゃあ、いいじゃんって思って。だって、合コンは全然付き合ってくれないし、トモヤがいるからかなーと思ったけど違うって言うし」
すねてしまったミヤちの頭を、よしよしと撫でてやる。
「だって、ほんとにトモヤは違うから」
ちらりと教室の真ん中で談笑している幼馴染の顔を見る。それに気づいたトモヤが「よお」と手を上げ、あたしも同じように返した。
小、中、高と一緒で、気心知れていて、一緒にいるのはラクで楽しい。
でも、それだけだ。一生これが続くのかな、と思うと、申し訳ないが「つまらないな」と思ってしまう。
合コンだってそうだ。ミヤちたちが興味津々だから、楽しいかなと思って参加してみた。だが、案外しっくりこなくて、それ以降の誘いは全部断っている。
だから、なんとなく後ろめたい気持ちがあり、料理部のときはその場のノリに合わせたのだ。
それがこんなことになろうとは。
とにかく、今日もまずいお菓子地獄を乗り切らなければならない。あたしは時計を見てため息をついた。
「ああ、そろそろ行かないと……」
「えー、クレープはあ?」
撫でられたことに満足し、細目になったミヤちが不満の声を上げる。
「トモヤと二人で行ってきなよ」
「だって、トモヤは付き合ってはくれるけど食べないじゃん。あたしは一緒に食べたいの!」
「だったらやっぱり、また今度ね。火曜日は料理部休みだから、その日なら……」
不承不承頷くミヤちに手を振りながら、どこか空虚に思う。
毎日、帰宅部の友達と手ごろな店に入り、電車が来るまで時間をつぶす。話題は尽きないし、みんなとだべっているのは楽しい。はっきりした不満なんかない。
それなのに、不意に、虚しさが襲ってくる時がある。
楽しいのに虚しいって、どういうことなんだろう。
なぜあたしは、みんなと同じことに興味が持てないのだろう。
(……あたし、どこかおかしいのかな?)
どこかに、欠陥でもあるのだろうか――。
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