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こんな品性の悪いぶってり猫が俺っちのハナ(こころの花)を見たとは許せず、俺っちは気がつくとそいつに跳びかかっていた。
〈ぎゃあうぉぉ、にぎゃうぉ〉
茶トラと黒のボールのように俺っちとそいつはくんずほぐれつした。
俺っちは強い。
だが、クロ似のそいつも見かけによらず強かった。
十分後。
瞬発力を命にする俺っちら猫族には限界だ。
これでも命がけの戦いだったんだ。
けっきょく俺っちと黒は互いにはあはあ息を吐きながら、舌を出して各々自分の肩をちろちろと舐めていた。
「てめえ、つええな」
俺っちは公平な猫だ。そう言ってやると、黒猫はにやりとして、
「おみゃあもなかなかだぜ。おりゃの縄張りに公然と入り込んでくるだけのことはある」
「縄張りか。それで俺っちに嚙みついたのか。安心しな。俺は放浪の旅に……」
ド・ド・ド・ド。
いきなり妙な音がして、すごい歌声が聞こえる。
と思うと、それに合わせるかのように、近くの古墳で、埴輪たちが踊り出した。
「変わった街だぜ」
俺っちがつぶやくと、黒猫はどや顔で尻尾を高く上げた。
こいつ、オスの癖に長い尻尾があるのか。
「さあ、ドリームタイムはこれからだ」
いきなり標準語になったかと思うと、それまで白金と黄金色に冴え冴えとしていた海浜公園のイルミネーションが華やかに灯った。
赤、青、緑、金、銀、紫、ピンク、シャンパンカラー。
「おみゃあも愉しんでけや、余所者」
黒が堂々と立ち去った。
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