第一章 霊斬の知られざる一面

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 しばらくすると、戸を何度か叩く音が聞こえた。  引き戸を開けると、一人の武士が立っていた。 「幻鷲殿とお見受けする。ひとつ、頼みを聞いてもらえぬか」 「では、こちらへ」  霊斬は武士を部屋に上げた。部屋の真ん中に、霊斬とその武士は向かい合って座った。 「それで、頼みとは?」 「この刀を直してほしい」  床に置いていた刀を差し出した。 「拝見いたします」  霊斬は刀を手に取って鞘を抜き、刀身に目を走らせる。  丁寧に扱っているのはすぐ分かった。刀は武士の(たましい)という。それほど大切にしていることが、ひしひしと伝わってくる。 「(うけたまわ)りました。七日後に、またお越しください」  霊斬は刀を仕舞うと、深々と頭を下げる。 「こちらの都合ですまぬが、お代は先払いでよいか?」  武士は袖から小判五両を出し、差し出してきた。 「はい」 「では、これで」 「お待ちください。こんなにはいただけません」  霊斬は慌てて小判を返そうとする。修理ならばここまで高額にはならない。(ぜに)と銀があれば十分。 「そなたが幻鷲だから、これほどの額を払うのだ」 「……分かりました」  霊斬は渋々、小判を受け取る。 「では、失礼する」  霊斬は武士を見送る。  預かった刀を一瞥(いちべつ)し、外に出た。
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