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水に浸しては金槌で叩き、形を整えていく。理想の形に満足しつつ、水に浸す。
丁寧に研いで仕上げると、鞘に仕舞って自分の後ろに置く。
たすきを解くと、辺りが薄暗いことに気づいた。
――朝から飲まず食わずで、作業していたのか……。
霊斬は顔を洗ってから、腹を満たすためにそば屋へ足を向けた。
「あら、旦那! いらっしゃい! 奥へどうぞ!」
霊斬に気づいた千砂が、声をかけてきた。
賑やかな店の中をよそに、無言で席に腰をかける。
「ご注文は?」
「そばをひとつ」
「二日もこもって仕事を?」
「ああ」
刀を直している間は時を忘れてしまう。そのことを痛感した瞬間だった。
そばを平らげた後、銭を置いて店を後にした。
夕方、園田が店に顔を出す。店に招き入れるや、園田は口を開いた。
「早くきてすまぬが、刀は直っておるか?」
「はい。こちらでございます」
霊斬はさっそく、刀を見せる。
「たしかに」
「失礼ですが、私に修理の依頼をしたのは口実でしょうか?」
「……はい。しかし、武士の恥でもあり、どう話したらよいものかと」
「そのままで結構です。決して他言はいたしません」
「我が主はある理由で、賊に命を狙われている」
「賊……ですか」
「うむ。こちらでも調べたが、とあるお方の指金らしい」
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