第一章 霊斬の知られざる一面

8/13
前へ
/143ページ
次へ
 水に浸しては金槌で叩き、形を整えていく。理想の形に満足しつつ、水に浸す。  丁寧に研いで仕上げると、鞘に仕舞って自分の後ろに置く。  たすきを解くと、辺りが薄暗いことに気づいた。  ――朝から飲まず食わずで、作業していたのか……。  霊斬は顔を洗ってから、腹を満たすためにそば屋へ足を向けた。     「あら、旦那! いらっしゃい! 奥へどうぞ!」  霊斬に気づいた千砂が、声をかけてきた。  賑やかな店の中をよそに、無言で席に腰をかける。 「ご注文は?」 「そばをひとつ」 「二日もこもって仕事を?」 「ああ」  刀を直している間は時を忘れてしまう。そのことを痛感した瞬間だった。  そばを平らげた後、銭を置いて店を後にした。      夕方、園田が店に顔を出す。店に招き入れるや、園田は口を開いた。 「早くきてすまぬが、刀は直っておるか?」 「はい。こちらでございます」  霊斬はさっそく、刀を見せる。 「たしかに」 「失礼ですが、私に修理の依頼をしたのは口実でしょうか?」 「……はい。しかし、武士の恥でもあり、どう話したらよいものかと」 「そのままで結構です。決して他言はいたしません」 「我が主はある理由で、賊に命を狙われている」 「賊……ですか」 「うむ。こちらでも調べたが、とあるお方の指金らしい」
/143ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加