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一番傷ついたのは霊斬なのに。誰かに頼りたいときだってあるだろうに、決して頼らない。
そんな彼の傍にいたかった。心の傷は癒せないかもしれない。けれど、寄り添いたかった。誰よりも強くて、誰よりも孤独で。誰よりも怒り、誰よりも哀しんで。誰よりも、苦しんでいる霊斬に。
「よくもまあ、そんなんで今まで生きてこれたねぇ」
霊斬が苦笑する。
「そうだな。いろんな奴らから、恨みは買っているだろうな」
「さらっと怖いことを、言うんじゃないよ」
千砂にようやく笑顔が戻る。
「話してくれてありがとうね。あたしはこれで」
千砂が立ち上がった途端、体勢を崩す。それを慌てて支えた霊斬は、思わず申し出る。
「送っていく」
「悪いねぇ。だいぶ、呑んじまったようだね」
千砂が霊斬に支えられたまま苦笑する。
格子から外を見れば、空に月が浮かんでいた。
「そのようだ」
霊斬は千砂を座らせると、部屋を出る。
「大将、長い間すまなかったな」
「気にすんな。よくあることだから」
大将はひらひらと手をふってみせる。
「そうか」
袖から財布を取り出した霊斬はお代を払う。
霊斬は部屋に戻り、千砂を背負うと飯屋を後にした。
千砂を背負って歩いていると、寝言が聞こえてくる。
「……独りで抱え込むんじゃないよ。ばーか」
――一言、余計だ。
と思いつつ、霊斬は内心で感謝し、背負い直すと隠れ家に向かった。
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