第一章 霊斬の知られざる一面

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「かしこまりました」  霊斬は指定された刀を、武士に差し出す。  武士は慣れた手つきで刀を抜き、刀身に視線を走らせる。 「うむ。……よいな。これと隣のを一本、もらおう」 「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」  霊斬は二本の刀を手に、反対側にある階段箪笥(だんす)へ向かう。  小さい抽斗(ひきだし)から、刀袋を二枚取り出す。素早く二本の刀を袋に入れる。 「お待たせいたしました。お品物でございます」  霊斬は刀を自分の前に置き、武士に向かって頭を下げる。 「では、これを。失礼いたす」  武士は金を払い、刀を持って店を出ていった。      二日後、いつものように奥の部屋で刀を作っていた。  表の方から声が聞こえてきた。 「幻鷲! いるかぁ?」  聞こえてきた大声に溜息を吐き、作業を中断して表へと向かった。 「静かにしろ」  霊斬は吐き捨てつつ、訪れた男を睨みつける。 「店に出てないお前が悪い」  姿を見せたのは鍛冶仲間の()(すけ)。まともな用件であったためしがなく、霊斬は呆れている。 「それで、今日はなにをしにきた?」 「お前が通っているそば屋の娘が、可愛い子なんだって? 紹介してくれよ」 「女房持ちのお前に、紹介なんぞ誰がするか」 「相変わらずの毒舌だな」 「ったく……。もう戻るぞ」  溜息混じりに頭を掻いた霊斬は、部屋に戻ろうとする。 「じゃ、俺はそろそろ。早く女見つけろよ!」 「ああ。……黙れ、馬鹿」  霊斬は最後にぼそっと吐き捨てる。  奥の部屋に戻り、刀作りを再開した。
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