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数日後の朝、霊斬は布団の中で目を開け、寝返りを打つ。
依頼人の憎しみや怒りや悲しみを、幾度となく見てきた霊斬。生きることは惨く、絶望しかないと思っている。
幾度となく訪れる依頼人達は、藁にも縋る想いで頼ってくる。その姿だけでも、哀れでならない。彼らの心は救われても、俺は決して救われない。
そう思うようになってようやく、この仕事が楽にこなせるようになってきた。
未だに過去のことは燻っている。それを気にしていられないほどの、依頼人達の闇を見せつけられ。俺のことはどうでもよくなってしまう。
この仕事をしてから、何度絶望したか分からない。
それほどまでに闇が深い仕事なのだ。俺が始めた手前、最後までやり抜くしかない。
霊斬は諦めと絶望が、ない交ぜになった表情を浮かべた。
霊斬は重い身体を強引に動かして、一階へと降りる。板の間に胡座をかいて、ぼんやりと天井を見上げた。
戸を叩く音で視線を表に向けつつ、立ち上がって引き戸を開けにいく。
一振りの刀を持った男が、不安そうに立っている。
「どうなさいました?」
「鍛冶屋の次郎ってもんですが、この刀、見てもらえませんか?」
「こちらに」
霊斬は支度中の看板をそのままに、次郎を招き入れる。
お互い正座で座ると、霊斬が切り出した。
「見てみますね」
問題の刀を受け取る。
鞘を外そうと静かに動かした瞬間、刀身と鞘の間から液体が滴り落ちる。
次郎がぎょっとしたが、霊斬は動じずその液体に指先で触れる。
「この刀はいつ、あなたの許へ、持ち込まれたのですか?」
「今朝です」
「これは血と雨が混じったものです」
指で触れた少しぬるぬるした感触と、今朝の雨から推測した。
「血ですって!?」
「持ち主が雨の中誰かを斬り、血や雨を拭わないまま鞘に収めた。といったところでしょうね」
その証拠に霊斬が鞘を抜くと、刃に血糊がついていた。
「雨が降っていたのに、どうして血が……?」
「小雨だったからでしょう。この刀を持ち込んだ方の特徴は?」
「笠を被っていたので、顔までは分かりません。ただ、紋があったような……」
「どのようなものでしたか?」
霊斬は次郎が思い出している間に、筆と和紙、硯の用意をした。
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