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次郎はしきりに首をかしげながら、紋を描いた。
「ありがとうございます」
「あ、あの!」
次郎が慌てて声を出した。
「なんでしょう?」
「その人が言っていたんです。〝その刀を幻鷲のところへ持っていってほしい〟と。お代も預かっています」
次郎が懐から小判一両を取り出し、手渡してきた。
「そうですか。ありがとうございます。この件については他言無用で」
「は、はい! では、失礼します」
刀を霊斬に預けると、次郎は店を後にした。
霊斬は血糊を落とし、改めて刀身に視線を走らせる。
切れ味が落ちているだけで、修理自体は簡単に済みそうだ。
焦っていたのだろうと思うものの、その理由が分からなかった。
血のつき方からして、斬ったようには思えない。
霊斬は持ち主について考えながらも、修理を始めた。
その日の夕方、霊斬は情報屋として名高い〝烏揚羽〟を探しに町へ。
噂話でもなんでもいいから、手がかりがほしかった。しばらく町を歩き回って得られた情報は、霊斬がいきつけの店の千砂が、二つの顔を持っているとかいないとか。確証もないし、情報としてはあやふやだが、それに賭けてみるしかなかった。
意を決して、霊斬は千砂が働いているそば屋へ顔を出す。
「ちょっといいか?」
「なんだい?」
霊斬は小声で、二人で話したい、と告げる。
千砂はまずきょとんとした顔をする。
「二人で話せないか?」
きょとんとした顔が可愛いと思いつつ、霊斬はもう一度繰り返す。
「ちょっと待っててください! 話せるかもしれないので!」
千砂はその声で我に返り、店に引っ込んだ。
しばらく待っていると、前掛けを外した千砂が戻ってきた。
「店の様子が分かった方がいいから、裏でもいい?」
「ああ、悪いな。突然」
霊斬はそば屋の裏までいき、申しわけなさそうに言う。
「いいよ。それで話ってなに? あ、ちなみにここでなら誰にも話を聞かれないから、安心して?」
千砂はにこりと笑う。
「ならば、遠慮なく。凄腕の情報屋を探していてな。俺も一度しか見ていないのだが、以前富川家の依頼の際に、姿を見せた忍びがいる。烏揚羽かどうかも聞き忘れてな」
低い声で霊斬は一気に言った。
「ふうん? 烏揚羽について、他に知ってることは?」
千砂が首をかしげる。
「お前が二つの顔を持っているかもしれない、という噂しか集められなかった」
霊斬は困った顔をして言う。
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