第二章 何者?

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 次郎はしきりに首をかしげながら、紋を描いた。 「ありがとうございます」 「あ、あの!」  次郎が慌てて声を出した。 「なんでしょう?」 「その人が言っていたんです。〝その刀を幻鷲のところへ持っていってほしい〟と。お代も預かっています」  次郎が懐から小判一両を取り出し、手渡してきた。 「そうですか。ありがとうございます。この(くだり)については他言無用で」 「は、はい! では、失礼します」  刀を霊斬に預けると、次郎は店を後にした。      霊斬は血糊を落とし、改めて刀身に視線を走らせる。  切れ味が落ちているだけで、修理自体は簡単に済みそうだ。  焦っていたのだろうと思うものの、その理由が分からなかった。  血のつき方からして、斬ったようには思えない。  霊斬は持ち主について考えながらも、修理を始めた。      その日の夕方、霊斬は情報屋として名高い〝烏揚羽(からすあげは)〟を探しに町へ。  噂話でもなんでもいいから、手がかりがほしかった。しばらく町を歩き回って得られた情報は、霊斬がいきつけの店の千砂が、二つの顔を持っているとかいないとか。確証もないし、情報としてはあやふやだが、それに賭けてみるしかなかった。  意を決して、霊斬は千砂が働いているそば屋へ顔を出す。 「ちょっといいか?」 「なんだい?」  霊斬は小声で、二人で話したい、と告げる。  千砂はまずきょとんとした顔をする。 「二人で話せないか?」  きょとんとした顔が可愛いと思いつつ、霊斬はもう一度繰り返す。 「ちょっと待っててください! 話せるかもしれないので!」  千砂はその声で我に返り、店に引っ込んだ。  しばらく待っていると、前掛けを外した千砂が戻ってきた。 「店の様子が分かった方がいいから、裏でもいい?」 「ああ、悪いな。突然」  霊斬はそば屋の裏までいき、申しわけなさそうに言う。 「いいよ。それで話ってなに? あ、ちなみにここでなら誰にも話を聞かれないから、安心して?」  千砂はにこりと笑う。 「ならば、遠慮なく。凄腕の情報屋を探していてな。俺も一度しか見ていないのだが、以前富川家の依頼の際に、姿を見せた忍びがいる。烏揚羽かどうかも聞き忘れてな」  低い声で霊斬は一気に言った。 「ふうん? 烏揚羽について、他に知ってることは?」  千砂が首をかしげる。 「お前が二つの顔を持っているかもしれない、という噂しか集められなかった」  霊斬は困った顔をして言う。
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