第二章 何者?

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「それで、聞きにきたわけね? まあ、伝手(つて)がないわけじゃあないけれど。烏揚羽に話を聞いてみることはできるよ?」  千砂は考え込む。 「なにっ!? ならば、この家紋がどこの家のものなのかも分かると助かる」  霊斬は目を剥きつつ、懐から取り出した家紋の書かれた和紙を見せた。 「嘘を吐いたっていいことないよ? じゃあ、預からせてもらうから。本人から答えを聞けるかもしれないけれど。じゃあ、またね」  千砂はそこまで言うと、和紙を仕舞って、立ち去った。  二日後の夜、酒を呑んでいた霊斬は、戸を叩く音を聞き、表に向かう。  引き戸を開けても人がいないことが分かり、周囲を見回した霊斬だったが、分からぬまま店に戻る。 「〝因縁引受人〟の幻鷲霊斬さん?」  それからしばらくして、どこからともなく声が聞こえてきたので、刀を手に警戒する。 「そうだが?」  霊斬は警戒心を剥き出しにして答える。 「探しても無駄だよ。この術は解かない限り、姿は見えない。それと、千砂から聞いたよ。あの家紋は光里(みつり)家のもの。いずれ、姿を見せて話すつもりだから、お預けってことで」  声が少し残念そうに言う。 「これだけ教えてくれ。〝烏揚羽〟なのか?」  霊斬は慌てて声をかける。 「そうだよ。また会う日まで、死なないでね。今宵はここまで。じゃあね」  静かになった部屋で霊斬はふうっと息を吐く。 「あの声が〝烏揚羽〟……か。光里家ならば、旗本で将軍のお気に入りとされているはずだったが」  ――そんな奴らに、なんの恨みがある?  霊斬の疑念は深まる一方だった。      翌日の昼間、霊斬はそば屋を訪れる。 「いらっしゃい! 奥へどうぞ」  元気な声の千砂に会釈をし、霊斬は奥の方へ足を進め、腰を下ろした。 「そばをひとつ!」 「かしこまりました」 「なに頼んでるんですかい?」  と酔っぱらった客に絡まれる。  霊斬は聞かぬふりをした。  しばらくするとその客は、霊斬から離れていった。 「幻鷲さん、話さなくて正解ですよ」  話しかけてくるのは、この店の常連客。 「どうかしたのか?」 「ただのやけ酒ですって。女に振られたとかで」  周囲に笑いが起こるが、霊斬は表情ひとつ変えない。 「そんなことで呑んでいたら、身体がもたないな」 「さすが、幻鷲さん! いいこと言うじゃねぇか!」
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